変化する移転価格上のリスクを管理する

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング ジャパン・ビジネス・サービス
ブリスベン 税務アカウント・エグゼクティブ
渡辺登二

著者プロフィル◎米国弁護士。国外投資スキームのストラクチャリング、移転価格、M&A、資金調達、税務当局対応において税務とリーガルをあわせ15年以上の経験を有する。現在、日系企業の豪州およびパプアニューギニアへの投資に対する税務サービスを担当
変化する移転価格上のリスクを管理する

オーストラリアにおける移転価格事情が新たに変化しています。近年の豪州移転価格税制改正法の導入背景に、税務上の透明性を求める新しい規定の導入や連邦議会上院による「法人の税務回避」に関する公聴会の開催などをその例として挙げることができます。今月号では、移転価格事情と日系企業はどのようにして移転価格リスクと向き合っていくべきかという点について解説します。

オーストラリアの移転価格事情

まずオーストラリア政府は課税基盤浸食と利益移転(BEPS)の問題に対処すべく、移転価格制度の改正を行いました。この改正の結果、2013年6月29日に所得税賦課法(Income Tax Assessment Act 1997)「Subdivision 815-B」および租税管理法(Tax Administration Act 1953)「Subdivision 284-E」が有効な法律として導入されました。これら改正の概要は以下の通りです。

● オーストラリア法人税の確定申告におけるパブリック・オフィサー(一般にオーストラリア国税庁(ATO)に対して豪州(子)会社を代表するものを指す)に対する移転価格税制度を遵守していることの自己申告義務づけ

● 移転価格文書化の罰則金規定への盛り込み

● 関連会社間取引における独立企業間の価格判断の際に、実際に行った取引を税務上仮想される取引に再構築する権限をATOへ付与

この移転価格制度の改正を背景に、BEPS行為の疑いのある企業に対して積極的に税務調査が行われるようになりました。特に以下の分野について関連会社取引が注目されています。

● 販売・マーケティング取引(特にマーケティング・ハブを使った取引)
● 事業再編(特に知的財産の他国への移動とロイヤルティ支払いの流れ)
● 関連会社間における金融取引
● 電子商取引
● 収益率の低いもしくは損失のある企業

以上の国外関連会社間取引をチェックする上でATOは次の方針を打ち出しています。

● グローバルでのビジネスの構造とサプライ・チェーンの一連の流れを理解した上でオーストラリア事業の位置づけを判断することを重視―ATOが特に注目するグローバル・サプライ・チェーンにおける価値の所在を理解することで、実際に遂行される機能、それに使用される資産、各当事者が取るリスクが適切かどうか、また独立企業間において同様の取引が行われる場合と比べて許容範囲内にあるかといった判断を行う上で役立つ。

● 国外関連会社間取引について価格と利益の両方に対して移転価格上のテストを行う。ATOは特に取引の結果が独立企業間取引に準じているかどうかについて注目しているため、低い利益率または損失のある企業は税務レビューの対象として選ばれやすい。

● 移転価格の設定およびモニタリングするための内部統制プロセスの理解―ATOは納税者が「当初設定したモデルを忠実に実行する」状態を確保できていることを重要視。

移転価格上のリスク管理

このようにATOによる審査が厳しくなってきている中、納税者が自身の移転価格リスクを正しく理解し、それを管理していくために適切な措置を取ることが重要となります。以下では移転価格リスクを管理するため最も一般的に用いられている措置について説明します。

 

事前確認制度

事前確認制度(Advance Pricing Arrangement、以下APA)は、オーストラリアの納税者が多国間の関連会社取引において移転価格リスクを最も低減する方法とされています。しかし、APA申請における承認手続きは今まで以上に広範囲およびかつ複雑になってきています。グローバルに展開する事業の全体像を把握することに重点が置かれ、移転価格上の問題のみならず副次的な所得税に関わる問題(例:源泉徴収税、恒久的施設、税務上の実務問題)を明確にすることを目指しています。以上に関連して、ATOは法律施行に関する実務指針(Practice Statement Law Administration 2011/1、以下PSLA)の見直しを行っています。今後数カ月のうちに発表されることが見込まれるこのPSLAにおいて、APAにおけるATOの新しい方針および手続きが明確にされるとみられます。

 

税務通達に従った移転価格文書化

確定申告前までに英文で、ATOガイドライン税務通達(TR)2014/18に従った文書を準備・完成させておくことで、その後、税務調査で移転価格上の調整により上方修正申告を行うことになったとしても、「合理的に議論できるポジション(Reasonably Arguable Position)」を主張することでペナルティー減少の可能性があります。
 旧移転価格制度(すなわち、所得税賦課法1936第13章、所得税賦課法1997第815-A条、およびTR 98/11)の要件に従って作成された移転価格の文書やオーストラリア国外の関連会社がグローバル・グループのためにグローバル移転価格文書(Global Transfer Pricing Documentation)を作成している場合、それらの文書が移転価格改正法における要件を満たしているか確認をする必要があります。

 

PSLA 2014/3に従った簡易文書の作成

ATOは、移転価格改正法のもとすべての要件を満たし文書化を行うことが、小規模納税者、販売業者、およびグループ内サービスやグループ内の借入金レベルが低い企業に対して移転価格の規定に遵守しないことのリスクが釣り合わないレベルにある事務上の負担を強いる結果につながると認識しています。そこでATOは、特定の基準を満たす納税者に対して記録保持を簡素化する選択肢を与えています。これを選択することで納税者は多国間の関連会社間取引が独立企業間の取引に類似することを文書化するためにかかる費用を抑えることが可能です。
 オーストラリア連邦政府およびATOによりBEPSおよび特に移転価格制度が重要視されることから、日系企業を含む多国籍企業は自社の国外関連企業間取引の実態を再確認し、移転価格リスクを適切に管理していくために、上述したAPA、移転価格文書化、簡易文書化の中で最適なオプションの選択を行うことが重要となります。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

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(02)9248-5986
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