日本では非課税となる 海外からの受取配当と その影響について

税務会計最前線
KPMG会計事務所
パートナー 八郷 泉


日本では非課税となる
海外からの受取配当と
その影響について


 自由民主党は昨年12月12日付けで、「平成21年度税制改正大綱」を取りまとめ公表した。この中に「外国子会社配当益金不算入制度」の創設が含まれており、本年4月1日以降開始事業年度の受取配当から適用されることとされた。現行の外国税額控除制度の下で、二重課税の調整を行ってきた日本企業にとって、この新制度の導入の影響は多方面にわたり、事業形態などの見直しも必定と考える。以下、この新制度の内容と影響について解説を試みる。


Ⅰ背景


 この新制度の創設は、もともとは経済産業省の要望に基くもので、その要望の主旨は以下であった。
* 現行制度では、海外子会社利益を日本に配当すると日本の高税率で課税される。また、現行の複雑な外国税額控除方式の下で、税務上最も有利になるように日本に配当しているのが実態。
* このため、税制が一因となって、海外利益が日本に還流せず、過度に海外に留保される。
* 長期にわたって過度に資金が海外に留保されると、研究開発や雇用が国外に流出する懸念がある。
* 税制に左右されず、グループ全体の投資戦略や成長戦略の観点から、海外子会社の利益を必要な時期に必要な金額、国内に還流させることが可能となる制度改革が必要。
* したがって、海外子会社からの配当については、全世界所得方式の下での外国税額控除方式から、国外所得免除方式への移行が必要。
 すなわち、現行税制の下では、海外の子会社が日本の親会社に配当すると、日本の高い法人税率で課税されるので、現状では資金が配当されず海外に留保されている。この資金を日本に配当させやすくして、日本国内の投資を促進させようというのが、制度改革の背景である。


II. 新制度の内容


 日本経済の活性化のため、日本企業が海外市場で獲得する利益の国内還流に向けた環境整備が求められる中、企業の配当政策の決定に関する中立性、適切な二重課税の排除、制度の簡素化の観点から、外国子会社からの配当を益金不算入とする制度が創設される。
 現行法においては、内国法人がその外国子会社から配当を受け取る場合には、その配当の額を益金に算入するとともに、外国子会社が納付した外国法人税は間接外国税額控除制度により、配当に係る源泉所得税は直接外国税額控除制度により、二重課税が調整されている。現行法と改正案の外国子会社配当益金不算入制度を比較すると、以下の通りである。
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「外国子会社」とは、内国法人が外国子会社の発行済株式などの25%以上の株式などを、配当などの支払義務が確定する日以前6月以上引き続き直接に有している場合のその外国法人をいう。なお、租税条約において間接外国税額控除の対象となる子会社の持株割合要件が緩和されている場合(例えば、日豪租税条約の下では、持株割合要件は10%である)には、外国子会社配当益金不算入制度においても、その緩和された割合が適用されるよう措置が講じられる。
 この規定の適用は、確定申告書にその明細を記載し、一定の書類を保存することが要件とされる。
 上記の改正は、2009年4月1日以降に開始する事業年度において受取る外国子会社からの配当などの額について適用される。なお、「外国子会社」に該当しない外国法人からの配当の税務上の取扱いは、従前通りである。
 外国税額控除制度について、以下の改正が行われる。
* 外国子会社配当益金不算入制度の創設に伴い、間接外国税額控除制度が廃止される。すなわち、外国子会社からの配当は課税されなくなるが、外国子会社が当該外国で納付している外国税金が日本の税金から控除される制度自体がなくなる。
* 配当に対して課される外国源泉税の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないとともに、外国税額控除の対象としない。
* 外国税額控除の適用を受けた外国法人税の額が減額された場合には、その減額に係る事業年度の控除対象外国法人税の額を減額などすることにより調整することとなる。現行法ではこの調整に期限がないが、改正により、外国税額控除の適用を受けた事業年度開始日以降7年以内に開始する各事業年度において減額された場合に限り調整が行われることとされる(この改正は、2009年4月1日以後に開始する事業年度において外国法人税の額が減額される場合について適用される)。


III. 影響


 以下、この制度の導入による、日本企業への影響をいくつか述べる。
* 必ずしも、日本への資金の還流が促進されるとは限らないが、企業にとっては配当についての自由度が増す。
* 日本への送金の手続き、手数料、源泉税、円にすることの為替リスクなどを考えると、日本へ還流させずに、現地で運用または再投資した方が有利との判断もある。
* 日本の外税控除制度は、一括限度額方式であるので、いわゆる「枠」を利用して、税率の高い国からの配当と低い国からの配当を上手く組み合わせる旨みがあったが、この旨みがなくなる。
* 配当に源泉税が課される場合には、その税負担を避けるために(今までは「枠」を利用できた)、あえて配当しないことも選択肢である。なお、オーストラリアの場合は、新租税条約の下で、持株率80%未満10%以上の子会社からの非適格配当(unfranked dividend)の源泉税率は5%であるが、持株率80%以上の場合及び適格配当(franked dividend)については、源泉税は課税されず、配当の源泉税負担はゼロまたは少ない。
* 海外支店形態は、利益が出る場合は、子会社形態と比較して不利である。例えば、オーストラリアの事業を、日本法人の支店形態で行えば、日本の高税率がそのまま適用となるが、子会社形態であれば、オーストラリアの30%の法人税のみで、日本への配当は、源泉税も日本での課税もない。
* 同じ事業が、海外でも行えるのであれば、海外で子会社形態でその事業を行った方が、税務的には有利である。したがって、新税制は日本の空洞化を促進させるおそれがある。このことは、日本が法人税率を下げない限り解消しないと考える。
* 事業の海外移転、移転後の親会社との取引などについて、日本の税務当局は、今までとは異なるレベルの調査を行うことが予想される。今までは、配当という形で親会社に還流させて日本で納税していれば、結果として更正しなかったようなケースがあったかもしれないが、今後は配当が日本で非課税になるので、海外子会社への事業移転の対価や親会社との移転価格が適正であるかについて、強い姿勢で臨むであろう。移転価格に関する一層の書類整備が求められる。
* 外国配当免除制度の下では、海外事業の資産配置、税金コストの管理の巧拙によって、連結ベースの実効税率に差が現れるので、タックス・プランニングを入念に行うことが必要である。


IV. 最後に


 本稿がもとにしている「税制改正大綱」は、改正案の概要を示すもので、改正の詳細は法律および政省令を待たなければならず、また、今後の国会審議などにより内容に変更が生じる可能性があることに留意が必要である。
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