収益認識基準の改正案について

税務&会計Review

KPMG会計事務所 
シニア・マネジャー 東 大夏

収益認識基準の改正案について

国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は2008年12月19日、ディスカッション・ペーパー「顧客との契約についての収益認識に関する予備的見解」(以下DP)を公表しました。その後、各国から当該見解についてさまざまな意見が寄せられ、ISABにおいて議論がなされています。

当該DPが提案する収益認識のモデル(提案モデル)は、実現や稼得、所有に伴うリスクと経済価値の移転などに基づく現行の収益認識のモデル(現行モデル)と異なるため、今後、企業および市場関係者に大きな影響を与える可能性があります。

10年4月から6月の間に、IASBから、このDPに対して寄せられた意見を反映して取りまとめた収益認識会計基準の公開草案(エクスポージャー・ドラフト:以下ED)が公表され、そして11年上半期には正式な基準として公表される予定です。そのEDの公表の前に、その前提となるDPの内容について理解を深めておくことは有用だと考えられます。本稿ではDPの概要、および企業に与えるであろう主な影響について説明します。

DPの概要

当該DPの主なポイントは以下の通りです。

●顧客との契約により生じる資産・負債の変動(すなわち、契約上の権利および義務から生じる資産・負債の純額)に基づく「単一」の収益認識モデルを提案するものであり、契約上の権利は、企業が契約上の「履行義務」を果たした時に収益として認識される。契約は必ずしも書面である必要はない。

●履行義務を果たした時点とは顧客に資産(財やサービス)が引き渡された時点であり、顧客に当該資産の「支配」が移転したか否かにより判断する。

●契約が複数の履行義務で構成されている場合、企業は当初取引価格を各履行義務の基礎となる財やサービスの独立した販売価格の比率を基にして各履行義務に配分し、それぞれの履行義務の履行時点でそれぞれの収益を認識する。

ポイントは「支配の移転」

現行の収益認識基準はIAS18号(AASB118)「収益認識」とIAS11号(AASB111)「工事契約」によって規定されています。財の販売に関しては、IAS18号において収益認識のために「財の所有に伴う重要なリスクと経済価値を買い手に移転していること」「販売された財に対して企業が所有と通常結びつけられる程度の継続的関与も有効な支配も保持していないこと」などの5つの要件のすべてを満たすことが求められています。

一方、提案モデルにおいては、契約上顧客に提供すべき個々の財やサービスの顧客への「支配の移転」に着目して収益を認識することになり、「所有に伴う重要なリスクと経済価値」の移転までは要求していません。

例えば、顧客に対し一定期間にわたって当該財にかかる収益(例:不動産を売却した場合の賃料収入など)を保証する、というケースでは、現行のIAS18号においては「所有に伴う重要なリスクと経済価値」が移転していないとされ、当該財にかかる収益認識に問題があるとされていましたが、提案モデルにおいては、「不動産の引き渡し」と「賃料保証義務」という複数の履行義務に区分(履行義務の区分については後述)され、取引の一部(ここでは不動産の売却)について収益が認識される、ということも考えられます。

ただ、現在の議論の中では何をもって支配の移転とみるのか、という支配の移転の解釈をさらに明確にすべきだ、という意見が出ており、今後公表されるEDでどのような見解が公表されるか、注視すべきところです。

工事進行基準が適用できなくなる?

工事契約の収益認識に関する現行の取り扱いはIAS11号(AASB111)「工事契約」で規定されており、工事契約は取引の成果を信頼性をもって見積もることができない場合を除き、進行基準で会計処理しなければなりません。

一方、提案モデルでは、顧客が建設の進捗に応じて財やサービスに対する支配を獲得する場合にのみ、それに対応する収益を認識する、とされています。

通常の工事契約においては、物件が完成し、顧客に引き渡すことで初めて顧客に「支配」が移転するという契約条件になっていることが多いと考えられます。そのようなケースにおいては、建設中の個々の材料(財)や建設作業(サービス)の支配は顧客に移転されないため、進行基準での収益認識ができなくなる可能性があります。

しかし、進行基準を否定するようなこの提案モデルに対しては、各国から「強い懸念」が表明されました。これを受けて、09年9月に再度IASBにおいて議論がされ、進行基準を適用できる可能性を広げるような見解が出されたとも言われていますが、正式見解ではなく、今後公表されるEDにおいてどのような見解が出されるかが注目されています。

「製品保証」が収益に?

現行実務上、製品保証などは通常、個別に販売されるものではなく、製品などの販売に付随したものと考えられています。そのため、売り手は顧客から受け取った対価を製品部分と標準的な製品保証部分に分けて会計処理することはせず、顧客に製品を引き渡した時点で対価の全額を一時に収益として認識し、製品保証などは引当金として処理していると思われます。

一方、提案モデルでは、「履行義務」が充足されるごとに対応する収益を認識することとなるので、履行義務の識別単位で収益を認識します。「履行義務」とは、契約で約束された資産を顧客に移転する義務であり、次のような特徴があります。

(1) 財のみならず、サービスも含まれる。
(2)対象となる財やサービスが個別に販売可能であるならば履行義務となりうる。
(3) 顧客との契約締結の結果として生じる義務であれば、契約上明示されておらずとも、法律や商慣習により発生する義務も履行義務となりうる。

したがって、製品保証や類似する販売後のサービス(メンテナンス・サービスなど)も契約上の履行義務とみなされる可能性があり、取引価格は当該履行義務にも配分されることになります。そして、これらの収益認識のタイミングが主たる財と異なる(遅延する)結果となる可能性があります。

なお、09年10月にIASBで行われた会議では、各履行義務ごとに収益を認識する煩雑さを解消するために、複数の履行義務を、マージン、重要性、顧客への移転時期を考慮してまとめた「セグメント」ごとに取引価格を配分し、当該「セグメント」ごとに収益を認識する、などの議論がなされています。

また、09年12月にIASBで行われた会議では、履行義務となりうる製品保証の範囲が明確化され、製品の「交換 (replace)」が要求されている場合は履行義務とはならず、「修理(repair)」が要求されている場合のみ履行義務となる、ということや、販売時に潜在している不備に対する製品保証は履行義務にはならず、販売後に生じた不備に対する製品保証が履行義務になる、などの議論がなされています。

終わりに

上記のように、当該DPにおける見解は、工事進行基準を採用している建設業・不動産業や、製品保証や類似する販売後のサービスを提供している製造業・小売業など、さまざまな業界における収益の認識に関して、大きな影響を与える可能性があります。そのため、公表後、意見や懸念が多数寄せられており、IASBで活発な議論がなされています。繰り返しになりますが、今後公表されるEDおよび正式な基準においてどのような結論が示されるか、注視していくことが重要です。


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