ヘンリー・レビューの予想と留意点

税務会計最前線

KPMGシドニー事務所  パートナー 八郷 泉

ヘンリー・レビューの予想と留意点

(1)ヘンリー・レビューとは?
 政府は、21世紀における、人口、社会、経済および環境問題に対処できるオーストラリアの将来税制 (Australia’s Future Tax System, AFTS) を構築すべく税制の包括的検討を行うために、レビュー・パネル(ヘンリー・レビュー)を設置し、その答申は昨年末の12月23日に行われている。ヘンリー・レビューのメンバーは以下の5人である。

* ケン・ヘンリー博士、財務省次官
* グレッグ・スミス氏、オーストラリアカソリック大学
* ジェフ・ハーマー博士、家族、住宅、地域サービスおよび先住民問題省次官
* ヘザー・リッドアウト氏、産業界代表
* ジョン・ピゴット教授、NSW大学

答申はいまだ公表されていないが(4月19日現在)、政府は答申を検討中であり、答申は第1次検討結果とともに近々に発表される予定である。
 オーストラリアでは、アスプレー(1972〜75)、タックス・サミット(1985)、ラルフ(1998〜99)と、約12年置きに大きな税制改正が提案されている。ヘンリー・レビューも前回のラルフから約12年経過している。

(2)ヘンリー・レビューの大きな目的
 課税の強制力は、社会の目的を満たすことによって導かれるが、その目的は時代によって異なる。したがって、租税ポリシーは、その時代のチャレンジに答えるように設定されなければならない。現代のチャレンジは以下である。

* 人口の高齢化。人口の高齢化は、健康および老齢ケアの政府サービスを増大させ、歳入を増やさなければならず、累進課税を人口構造の変化に適したものに修正する必要がある。

* グローバリゼーションの進展。オーストラリアは、先進国であるが、人口が少なく、また資源開発に多額の資金を要するので、外国資本を必要とする。グローバリゼーションの拡大は、資本および人材の移動を容易にするので、税制もそれに対応しオーストラリアを投資先および勤務先として魅力あるものにしなければならない。

* 環境の悪化。環境税の導入が検討課題である。

* テクノロジーの進歩。テクノロジーの進歩は、政府のサービスの質を高めるがコストも増大する。一方で、申告書の電子化などにより、徴税コストが引き下げられる。また、テクノロジーの進歩は、思考方法に変革をもたらしているが、租税ポリシーも影響を受ける。

* オーストラリアは、連邦と州によって課税が行われているが、税目が非常に多く、課税ベースや課税方法が統一されていないので、調和が求められる。

* 課税の、効率、公平、簡素化。この3原則は、何時の時代でも求められる。

(3)予想される提言と留意点
 ヘンリー・レビューの提言には、下記が予想されている。

* 現行の州ベースの鉱物ロイヤリティーに替えて、鉱山業に対し連邦ベースの資源使用税(Resource Rent Tax, RRT)を導入する。

RRTは、簡単にいうと、標準的な利益を超えた所謂超過利潤に課税するキャッシュ・フロー税である。RRTは、あるプロジェクトから産出された資源に基づく収入が、当該資源を採掘するのに要したコストを超過した場合に課税される。この採掘に要するコストは、インデックスされ、投資に対する一定の回収率を提供する。インデクセーションの部分により、納税者は投下資本に対する一定の水準の利益を確保できる。RRTは、鉱山の探鉱および開発段階のみならず、投資コストおよび一定の利潤を回収するまで課税を行わない。しかしながら、いったん標準的な利益を回収してしまうと、適用される税率は通常のロイヤリティーと比較して高いものになる。例えば、現在オフショアの石油ガス・プロジェクトに適用されている石油資源使用税(PRRT)の税率は40%である。

したがって、RRTについては、税率のほかに、インデクセーションの率、控除できるコストの範囲、移行措置が重要な要素となる。今回のヘンリー・レビューの発表が、これらの要素にどの程度踏み込んでいるか非常に興味がある。

鉱山業に関与する日系企業は、RRTが既存および将来のプロジェクトにどのように影響するか評価を要する。

* 法人税率の軽減については、オーストラリア企業の国際競争力の見地から、支持する声が多い。2001年当時では、オーストラリアの法人税率は、ほかのOECD諸国およびアジア諸国と比較して低かったが、現時点では逆に高いものになっている。

問題は、現時点で財政的に実行できるかどうかである。また、今年は選挙の年であるが、選挙民に受け入れられるかどうかも重要な問題である。したがって、法人税率の軽減は、中長期的な目標である可能性が高い。

* 給与税の調和については、多くの関係者が賛成し期待している。しかしながら、すべての州が合意することが必要である。従業員が多く、州を超えて活動している企業にとって、大きなベネフィットがある。

* 租税ポリシーは、政府の環境政策と整合すべきである。例えば、カンパニー・カーについてFBTのベネフィットを享受するには、走行距離を増加させる必要があるが、このような点は改正を要する。

* 配当インピュテーション制度の改正。配当インピュテーション制度は、居住者と非居住者について取扱いが異なり、非居住者はフランキング・クレジットのベネフィットを受けないので、改正すべきとの議論がある。しかしながら、ヘンリー・レビューは制度の撤廃を提言せず、ニュージーランドとの間でフランキング・クレジットが使用できる改正を行うに止まると予想されている。

* 貯蓄および年金への課税の改正。負債と資本とで取扱いが異なる問題、金利が税務上控除できること(例えば、ネガティブ・ギアリング)が行動の歪みを招いていること、年金の税務取扱が富裕層を利していることなどについては、多くの議論が行われている。この分野での改正は、選挙対策として有効である。しかし、例えば貯蓄への課税を軽減するには、財源の問題を避けて通れないであろう。この分野での改正は、個人の納税者だけでなく、金融サービスセクターに影響を与える。

* 金融サービス分野の改正。この分野の提言は、ジョンソン・レポートとして2010年1月15日に公表されており、政府はヘンリー・レビューの一環として回答を検討している。提言は19項目あり、回答は年内の予定。

* 現行の道路使用に対する税制は、自動車重量税(登録時に納税)および燃料税である。これらは、税の徴収が使用前の時点であり、また徴収コストも低い利点がある。しかしながら、道路の使用状況を反映しておらず、道路への投資が適切に配分されず、交通渋滞を招いている。ヘンリー・レビューは、燃料税を大幅に見直し、電子的な道路使用税を導入しようとしている。

ヘンリー・レビューは、多くの分野にさまざまな影響を与えるが、個々の組織によってその影響は異なり、細部も重要である。個々の企業は、詳細な分析を行い、税制改正に適切に対応することが必要である。

ヘンリー・レビューは、政府に税制および移転給付制度の中長期的見直しを行う機会を提供し、オーストラリアの将来に大きな経済的ベネフィットを与える。税制および移転給付制度の改革は、海外からオーストラリアへの投資を魅力的なものとし、オーストラリアの企業がグローバル・マーケットで競争することを容易にし、さらに労働力の参加を活発にすることに資する。改革は、税制の不必要な複雑さを軽減し、現在コンプライアンスに従事している有能な人材をもっと生産性の高い仕事に振り替えることを可能とし、その結果、経済成長が高まることが期待される。


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