【詳報】オーストラリア連邦首相交代劇

新連邦首相にターンブル氏
アボット氏、1期目半ばで退陣

 

マルコム・ターンブル前通信相が9月15日、第29代オーストラリア連邦首相に就任した。連邦与党自由党は14日夜、緊急開催した両院議員総会で党首選を行い、ターンブル氏が現職のトニー・アボット氏に54票対44票で勝利した。支持率が低迷していたアボット氏は、首相就任から2年弱の1期目半ばで退陣に追い込まれた。ターンブル氏は党首選後の会見で、「直面する大きな課題と可能性を説明できるリーダーシップ」を訴え、経済改革に取り組む姿勢を強調した。

同時に副党首選も行われ、ジュリー・ビショップ副党首兼外相の留任が決まった。ターンブル新首相は16日、自由党とともに保守連合政権を構成する国民党との連立協定に合意した。新内閣の人事は21日に発表する。重要閣僚のうち財務相はスコット・モリソン社会サービス相の就任が有力視されている。

中道右派の自由党内では、ターンブル氏はリベラル系の政治家として知られる。政界入り前には、英国国王を元首とする現行の立憲君主制を見直し、オーストラリア人を元首をする共和制への移行を推進する運動を主導した。同性愛者の結婚を認める法整備にも賛同するなど、立ち位置は保守色の強いアボット氏と異なる。温暖化ガス排出削減など環境保護政策にも前向きだ。

ターンブル氏は1954年シドニー生まれの60歳。政界を代表する富豪だが、幼少時代に両親が離婚、父親に育てられながら経済的な困窮の中で奨学金で学校に通った経験を持つ。シドニー大、英オックスフォード大を卒業後、弁護士などを経て、投資銀行の経営者として巨額の富を得た。2000年まで「オーストラリア共和制運動」代表。04年に自由党からシドニー東部ウェントワース選挙区に立候補して初当選。ハワード政権で環境相、野党時代の08〜09年に自由党党首を務めたが、09年の党首選でアボット氏に敗北し、遺恨を残した。アボット政権では通信相として入閣した。


経済の構造改革に課題

ターンブル氏はアボット政権の主な政策を継承するとしているが、内政では今後、同性愛結婚の承認など社会政策を中心にリベラル色を徐々に打ち出す可能性がある。一方、経済界からは実業家としての経験が豊富なターンブル氏の手腕に期待が高まっている。外交や安保政策では、親米路線や日本との安保協力を進める基本姿勢に変更はないと見られる。

最大の課題は、中国の成長鈍化や資源価格の急落で岐路に立つ豪州経済の構造改革。ただ、資源輸出に代わる成長エンジンを育てるには時間がかかる。直近の「中国ショック」の影響も測りきれないだけに、党首選後の会見で訴えた「経済ビジョン」をどこまで具体化できるかは不透明だ。

各世論調査の支持率ではこれまで、ターンブル氏がアボット氏を大きくリードしている。就任直後のハネムーン(蜜月)効果もあって、当面は与党支持率が上昇する公算が高い。今回の党首選は、約1年後に迫った次期連邦選挙を視野に「勝てるリーダー」に期待を託した形だが、経済状況がさらに悪化すれば、支持率が高いうちに早期選挙に打って出る選択肢も残されている。


首相交代は5年間で延べ5人目

アボット前首相は2013年9月の前回連邦選挙で労働党から政権を奪取して首相に就いた。しかし、昨年5月の予算案で打ち出した緊縮策や「ごう慢」とされる政治スタイルが不評を買い、支持率が低迷、党内求心力を失った。

今年2月に開かれた緊急両院議員総会でも党首辞任が動議された。この際は、対立候補が現れず、信任票が不信任票を上回り、アボット氏は首相の座にとどまった。しかし、2016年末までの実施が予想される次期連邦選挙までの交代は避けられないとの観測も出ていた。

交代劇の口火を切ったのはターンブル氏。15日午後の会見で、通信相辞任を表明するとともに、アボット氏とは「異なるリーダーシップが必要だ」として党首候補に名乗り出た。公共放送ABCなどによると、ビショップ氏ら複数の有力議員が同日午後、アボット氏に会い、閣内に広がっている首相交代を求める声を伝えたという。ビショップ氏は、この時点でアボット氏への不支持を示唆したとされる。そのわずか数時間後にアボット氏の退陣が決まった。

6年間に延べ3人が首相に就いた前労働党政権に続き、アボット保守連合政権もオーストラリアでは異例の2年弱の短命政権に終わった。首相交代はこれまで5年間で延べ5人目。オーストラリアでは1人の首相が最低でも2期6年程度は務めるのが通例だが、近年は政権の短命化が著しい。ボブ・ホーク氏(労働党=首相在任期間83〜91年)、ジョン・ハワード氏(自由党=96〜07年)といった強いカリスマの不在も一因と言えそうだ。

 

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