NSW州政府、歴史的住宅を市場に

「勧告無視」とナショナル・トラスト

 シドニーの歴史保護地区ザ・ロックスの突き当たり、ハーバー・ブリッジの真下周辺ミラーズ・ポイントと呼ばれる一角に古い住宅の町並みがある。ロックスは1788年に第一移民船団が上陸して間もなくテント村から始まり、一時は疫病、ネズミなどのはびこるスラム街にもなり、中国人も多く住み着いたが、20世紀初めには再開発で中国人は今のチャイナタウンに強制移住させられた。幾多の変遷を経て、1970年代、ロックス再開発計画が持ち上がった時に取り壊されるはずだった港湾労働者住宅街である。建築労組や市民が反対運動を起こし、建築労組員はこの地区の解体作業をボイコットする「グリーン・バン」を展開し、住宅が歴史保護地区として保存され、当時の居住者とその家族が住み続けられることが決まった。しかし、最近のシドニー首都圏特に都心近くの不動産価格高騰でこの地区の不動産価格も高騰しており、NSW州政府の公営住宅の民営化計画が明らかになった。この地区に保存されている200戸ほどの住宅を競売にかける計画であり、プル・ガワード社会福祉相は、「売り上げは新しい公営住宅建設に投資する」と発表している。しかし、地価の高い都心部がますます高所得者で占められ、新しい公営住宅は地価の安い土地に建設される傾向があるため、「交通不便、アメニティがない、雇用がない」など現実には低所得者を隔離する棄民政策とされている。

 政府の計画に対して反対の声が挙がっているが、3月31日には歴史建造物保存制度を管理するナショナル・トラストが、「政府は歴史建造物を売却した場合に建造物が損傷を受ける危険を適正に評価しておらず、またアドバイスを受けることを怠っている。ミラーズ・ポイントの住宅売却を中止しなければならない」と発言した。バリー・オファレル州政府は「売却しても歴史的価値は保護される」としているが、批判派は、「政府は容れ物だけを問題にしており、住んでいる人間のことを無視している。この住宅には5世代にわたって住んでいる人達もおり、この地区で育って老齢になっている人々もいる。そういう人達が住んでいることが歴史的保護地区の価値だ」と主張している。

 ナショナル・トラストNSWのブライアン・スカースブリックCEOは、「この地区全域がナショナル・トラストに登録されているのに政府はナショナル・トラストに何の相談もない」と政府を批判している。また、首都圏には富裕地区にポケット状に公営住宅地が残っており、そのような公営住宅も売却され、住民が追い立てられるのではないかとの懸念が高まっている。反対派が問題にしているのは、オーストラリア社会の社会階層間の接触がますます失われるとともに国民的な一体感が失われ、政治にもそれが反映し、国全体の利害よりも一部社会階層の利益を追い求める政策が広まっていくことである。

 そのため、ライカート・カウンシルのダーシー・バーン市長は、シドニー、アシュフィールド、マリックビル、ノース・シドニー、ランドウィック、ロックデール、ウェーバリー、ウラーラなどの自治体に働きかけ、各自治体内の公営住宅売却阻止を訴えるとしている。(NP)

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