進出日本企業インタビュー第19回「マエカワ・オーストラリア」

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第19回 マエカワ・オーストラリア

本田 栄悟 取締役社長

(Photo: Naoto Ijichi)
(Photo: Naoto Ijichi)

前川製作所(本社・東京都江東区、前川正・代表取締役社長)は、業務用冷凍・冷蔵機の世界市場で3本の指に入る大手メーカーだ。特に環境負荷の低い「自然冷媒」や、鶏肉や豚肉の「食肉加工ロボット」で強みを持つ。オーストラリアには30年以上前に進出し、「マイコム」(MYCOM)ブランドの冷凍・冷蔵機のコンプレッサーを主に食品・飲料業界向けに卸している。現地法人マエカワ・オーストラリアの本田栄悟・取締役社長にビジネス戦略を聞いた。 (インタビュー=ジャーナリスト・守屋太郎)

地球に優しい冷凍・冷蔵機で強み
高付加価値のプラント事業に視線

――初めに、前川製作所という企業の概要をお聞かせください。

創業家の前川家が戦前に営んでいた氷の卸売問屋がルーツです。1924年に創業し、後に卸売だけではなく、製氷も手がけるようになりました。その技術を生かして、冷凍機の製造も始めました。現在の主力事業は、業務用のコンプレッサー(冷凍機の心臓部分の機械)、冷凍機、冷蔵庫などの製造ですが、今でも氷の製造・販売は続けています。

ニッチなマーケットですが、業務用冷凍庫・冷蔵庫のプラント・メーカーとしては、ドイツのゲア(GEA)グループ、米国のジョンソン・コントロールとともに、世界市場で3強の一角を占めています。主に大手食品メーカー様の巨大な冷凍庫や冷蔵庫の他、ビールの製造工程で発酵時に出る熱を抑える冷蔵設備、牛乳を冷やす設備なども手がけているんですよ。

チキン骨付きもも肉全自動脱骨ロボット「トリダス」
チキン骨付きもも肉全自動脱骨ロボット「トリダス」

――――前川製作所が持つ技術的なアドバンテージは何ですか?

強みは、地球環境に優しい「自然冷媒」への取り組みです。冷凍や空調、給湯の工程では熱を移動させるために「冷媒」という物質が欠かせません。冷媒の主力はかつてアンモニア(NH3)でしたが、フロンガスに切り替わりました。ところが、近年はオゾン層を破壊するフロンの使用が規制され、温暖化効果が高い代替フロンの規制も強化されています。

そこで、環境負荷の低いアンモニアなどの冷媒が見直されています。前川製作所は以前からアンモニアを冷媒に使った冷凍・冷蔵機で高い技術を持っていました。これに加えて「炭化水素系」(HC)、「二酸化炭素」(CO2)、「水」(H2O)、「空気」の5つの自然冷媒で、付加価値の高い技術を誇っているのです。

また、プラントの豊富なノウハウを応用した「食肉加工ロボット」も得意な分野です。前川製作所は1994年、完全に自動で鶏肉の骨を取り除く鶏肉加工ロボット「トリダス」の開発に日本で初めて成功しました。鶏肉に続いて、1時間当たり150〜200頭の処理能力を持つ豚肉加工ロボットも開発し、食肉業界の生産性向上を支えています。

牛肉加工ロボで技術革新起こしたい

――――一般の消費者にはなじみが薄い「B to B」(企業間取引)の業態ですが、実は生活に身近な分野で私たちも恩恵を受けているんですね。オーストラリアでは、どのような事業を展開しているのですか?

私たちは小さな町工場からスタートしましたので、「日本で認められるためには、世界で認められなければならない」という考えが強くあり、ずいぶん以前から海外に目を向けていました。1961年に旧ソ連にプラントを納入したのを皮切りに、64年に初の海外工場をメキシコに設立しました。以来、北米・中南米、欧州、東南アジアなどに次々と工場や販売網を広げていきました。現在では、日本国内と海外の売上高の比率はおおむね1対1といったところです。

食品製造工程の自動化は、前川製作所のオンリー・ワン技術だ
食品製造工程の自動化は、前川製作所のオンリー・ワン技術だ

オーストラリアにも今から32年前の1984年に進出し、コンプレッサーの供給を開始しました。15年前に、コンプレッサーをパッケージにして冷凍装置メーカーに卸す事業も始め、現在ではおおむねコンプレッサー単体が50%、パッケージが50%の比率となっています。主に、食品メーカーや食肉加工業者の倉庫にある冷凍・冷蔵施設、乳製品メーカーの冷蔵施設、ワイナリー(ワイン醸造所)の発酵を管理する冷蔵庫などの用途に使用されています。

オーストラリアの人口は一定の移民受け入れや高い出生率を背景に増加していますので、国内の食品業界の冷凍・冷蔵の需要は安定的に伸びています。また、牛肉の中国向け輸出が近年急増していることから、食肉業界のニーズも高まっています。

現在、シドニー南部のマトラビルとニュージーランドのオークランドに拠点があります。現状では、装置の納入と部品の供給のみで、アフター・サービスは冷凍工事会社が担当しているので、行っていません。ただ、我々のお客様と競合しないような、メーカーにしかできないアフター・サービスを、いずれは手がけたいと思います。

オーストラリアは他の主要市場と比較すると決して人口は多くありませんが、「テスト・マーケット」としてのメリットは大きいと考えています。オーストラリアで成功すれば、他の欧米市場でもうまく行く可能性があります。何か新しいアイデアを試すには、最適な市場だと言えるでしょう。

――――今後のオーストラリア事業のビジョンについてお聞かせください。

例えばビール工場の設計といったプラント全体を受注するのが、日本市場での前川製作所の主力事業になっています。オーストラリア市場では現状、あくまでも装置や部品のサプライヤーという立ち位置ですが、いずれはプラント全体のシステムを請け負う付加価値の高い事業にシフトしていきたいと考えています。

また、世界初の牛肉加工ロボットを開発して、オーストラリアに導入したいという構想も持っています。鶏や豚はある程度大きさが整っているので、試行錯誤の末、加工ロボットの開発に成功しましたが、牛は体が大きい上にサイズや種類がまちまちなので難しく、まだ実現していません。

牛肉はオーストラリアの主力輸出商品の1つであり、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が発効すれば、今後の伸びも期待できます。まだ壮大な夢の段階ではありますが、牛肉加工ロボットでオーストラリアの畜産業界に画期的なイノベーション(技術革新)を起こしたいと考えています。

●PROFILE ほんだ・えいご
<略歴>1968年生まれ。北海道出身。国立苫小牧工業高等専門学校工業化学科卒業。1990年、前川製作所に入社。2015年2月シドニーへ赴任後、同年6月より現職

<会社概要>
英文社名:Mayekawa Australia PTY. LTD.
事業内容:産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサーの製造販売、農畜・水産・食品、飲料関連製造プロセス冷却設備の設計施工など
代表者:本田栄悟
拠点:シドニー本社、ニュージーランド・オフィス(オークランド)
従業員数:15人

<沿革>
1924年 東京に前川商店として設立
1985年 シドニーに現地法人を設立

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