113年続く三井物産の歴史

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第13回

豪州三井物産

高橋康志 社長

豪州における三井物産の歴史は長く113年に上る。日本を代表する総合商社として今日に至るまで、同社は貿易と資源投資を通じ日豪両国とアジアの経済発展に大きな役割を担ってきた。豪州三井物産メルボルン本店に高橋康志社長を訪ね、豪州での事業の歴史や今後の戦略について話を伺った。(インタビュー=メルボルン支局長・原田糾)

●PROFILE
たかはし・やすし
三井物産常務執行役員/豪州三井物産社長兼ニュージーランド三井物産会長
<略歴>1981年慶應義塾大学法学部卒、2000年ハーバード・ビジネス・スクールPGL履修。1981年三井物産入社。入社以来一貫して鉄鋼原料部門に従事し、2006年米国三井物産SVP兼鉄鋼原料・非鉄金属DOO。08年米州本部業務本部長兼米国三井物産SVP。11年執行役員/金属資源本部長、13年執行役員/豪州三井物産社長兼ニュージーランド三井物産会長、14年4月より現職。

 

長期パートナーとして
豪州の発展に貢献

 

——三井物産とはどのような会社ですか。

1876年創業の三井物産は三井グループの中核的企業の1つ。初代社長・益田孝は社員に、「眼前の利に惑い、永遠の利を忘れるごときことなく、遠大なる希望を抱かれることを望む」と訓話しました。これは、目先の利益でなく、日本と世界に貢献できる良い仕事を大きく想起し、希望を絶やさず邁進しなさいという意味で、創業以来、我々に脈々と受け継がれるDNAの1つとなっています。

国家の近代化戦略の柱として「貿易立国」を掲げた当時の日本においてその役割を担うために誕生したのが三井物産で、以来、日本と世界、世界諸国間の貿易に従事する総合商社として今日に至ります。

近年では単なる貿易だけでなく、各種事業の権益を取得し事業に直接参加し、さらに当社が持つ多種多様な機能を繋いで付加価値を生み出すという仕事の進め方が特徴となっています。

世界67カ国に150カ所強の事業所ネットワーク網を持ち、総従業員数は約4万5,000人。連結純利益は2013年3月期3,079億円と高水準を維持し、14年3月期見込みは3,700億円です。

「ラーメンから衛星まで」と例えられる通り、事業は金属資源、エネルギー資源、鉄鋼製品、インフラ事業、機械、化学品、食糧、コンシューマー・サービスと多岐にわたります。

豪州資源産業の勃興・近代化に寄与

——シドニー拠点を開設した当時をご紹介ください。

当社がシドニーに第1歩となる足跡を刻んだのは、豪州が連邦国家として独立した1901年。日本では「殖産興業」「富国強兵」を掲げ、英国などから輸入した紡織機で羊毛や綿花、絹糸などを加工する軽工業を国家として興した時期です。

当時、当社の仕事の中心は羊毛や小麦、鉛などの非鉄金属の対日輸出でした。豪州の資源や食糧を日本向けに輸出し日本が加工する、という今日の日豪貿易の大動脈である貿易パターンの萌芽がこの時に生まれたのです。そして三井物産がその原型の形成に貢献できたことに、豪州地場長の譜系を継ぐ者としてささやかな自負を感じます。

豪州には4拠点があり、最初のシドニーが今年で113年目、1917年設立のメルボルンがあと3年で100周年。33年設立のブリスベンは昨年80周年の記念式典を行い、最後のパースが63年設立とこちらも昨年、50周年を迎えました。

貿易を停止した第2次大戦の直前時点には、当社1社で日豪貿易の3分の1を占める取扱高を誇っていました。戦後も戦前からの3拠点を早急に再開、63年にはパース店を開き、新しい形の日豪貿易を再び開拓していきました。

——戦後の事業形態はどのように変化していきましたか?


WA州ローブ・リバー鉱山で採掘した鉄鉱石の積出港、ケープ・ランバート港

戦後の日本が最も必要とした「産業の米」である鉄を大増産するための原料、すなわちWA州の鉄鉱石、東豪州の石炭の開発がその中心となりました。

ここで強調したいのは、今や豪州を代表するWA州の鉄鉱石産業やQLD州の石炭産業が、産業として当時はまだ存在していなかった点。今日の近代的産業として育成される、その最初の貢献を弊社が担ったのです。

特に石炭は、三井物産の100%出資で探鉱探査を行い、開発のためのジョイント・ベンチャーを組成する。市場は100%日本で、売買契約を仲立ちし、1パートナーとして投資も行い、融資の取りまとめにも協力しと、すべてにおいて主導的役割を果たしました。その最初がQLD州のモーラ炭鉱で設立は63年。近代的な石炭産業の最初のプロジェクトであり、私どもがまさに手作りで豪州産業の勃興そのものに携わった記念碑的な事業です。67年のWA州のマウント・ニューマン、70年のローブ・リバーも同様に、パートナー・日本の製鉄会社と二人三脚で豪州初の鉄鉱石開発に携わっています。

そして特筆すべきなのは、これら豪州の石炭・鉄鉱石事業において最初から今日に至るまで携わり続けているのは三井物産以外にないということです。権益の移り変わりは激しく、ほかのパートナーは出たり入ったりを繰り返しましたが、弊社だけは船を係留する碇のように常に携わり続けて来ました。益田孝の話の通り、長期的な視点と希望を持って各事業に取り組んできた証と言えます。

例えば、現在リオティントと組んでいるローブ・リバーは今でこそ非常に収益性の高い事業ですが、最初の9年は赤字でした。一私企業として、9年連続の赤字事業を持ち続けるのは並大抵のことではありません。それでも撤退しなかった。30年、50年、100年といった埋蔵量が基本となる資源産業を育てるには、「石の上にも30年」の覚悟が必要なのです。我々の先人がそれを実践し、その113年の蓄積が今の隆盛をもたらしていることを感慨深く思います。

さらに70年代には塩、80年代には豪州初のLNG開発事業であるノースウエスト・シェルフ(NWS)、90年にはウッドチップや油田、ガス田開発に参加し、戦後は金属、エネルギー、塩など資源系の事業を大きく拡大しました。

2000年代には鉱山機械のコマツ・オーストラリアへの出資、発電所への初出資、世界最大のリサイクル会社シムズへの最大株主としての出資、風力発電所の開発権取得、2010年代にはWA州ブラウズLNGへの出資、小麦集荷会社への出資などを行いました。さらにGDF Suezの電力事業を共同事業化し、今や豪州第4位の民間発電企業の一員となっています。

豪州第4位の主要輸出業者

——豪州事業の現況をお聞かせください。


QLD州ドーソン炭鉱(旧モーラ炭鉱)での石炭採掘の様子
WA州シャーク・ベイでの塩田事業

過去10年間の豪州事業への投資額累計は130億豪ドル超、約1兆2,000億円に及び、これは日本企業としてトップ、全世界の企業を含めてもトップリストの1社です。さらに上記のような各方面への権益投資によって、豪州の主要輸出品目の持ち分換算輸出量シェアはいずれもメジャーな地位を占めるようになっています。

鉄鉱石4位、石油5位、ガス7位、石炭7位、塩2位、ウッドチップ3位と、石油ではシェブロンやサントスより上位、豪州の主要輸出品目で石炭以外に日本企業の後塵を拝している品目はありません。持分権益ではありませんが、小麦も輸出扱い6位。豪州産全品目の総輸出額は80億豪ドルと日本企業としてはトップ、豪州全体でも4位となっています。

 

——世界展開における豪州事業の位置付けは?

豪州事業への投資額は当社の国別投資先として最大。直近の連結税引後利益の半分強が豪州事業によるものです。三井物産全体にとって豪州事業がいかに重要かお分かりいただけると思います。

豪州の最大の強みは、世界で最も伸びゆく国々、世界経済のエンジンであるアジアに対するプロクスミティーです。アジアの経済を補完する最も優位なポジションにあるのが豪州であり、豪州事業の成長性は今後も申し分なく高い。長期を見据えた時に、アジアの発展に伴ってLNGや石油、ガスといったエネルギー資源、鉄鉱石・石炭などの金属資源、食糧や森林系の農林産品を含めた上流産業の生産品需要はますます増えます。私どももこれまで以上に、豪州の競争力ある産品のアジアへの供給を戦略的に支援して参ります。

——目下の課題と中長期的なビジョンをお聞かせください。

中長期戦略の柱は3つ。1つは資源事業のさらなる強化です。あらゆる資源価格が同時に上昇する「リソース・スーパー・サイクル」時代を経て、現在はピーク時から少し下がったものの、各種資源価格は歴史的に見てまだ高水準にあるという状況です。特に私どもは、初期から権益を保有し続けてきたという長期的取り組みの結果、最もコスト競争力のあるプロジェクト群にポジションがあり、幸いにして引き続き高収益を上げることができています。最近はパートナーとともに上昇したコストを生産性向上によって吸収する取り組みを進めており、エネルギーも金属資源も豪州事業の競争力は引き続き強く、伸びゆくアジアからの需要も増えこそすれ減ることはない。したがってBHPビリトンやリオティントなど信頼できるパートナーとともに、増加する需要に対応すべく、競争力のある資源事業をより強化します。

2つ目は資源周辺事業の強化。鉱山業内部のノウハウを蓄積する我々と鉱山機械トップのコマツが組んで機械を鉱山会社に販売する事例をはじめ、横浜ゴムとベルトコンベア・システムを鉱山会社に納入したり、インペックスのイクシスLNG開発事業にラインパイプを納めたりしています。こういう資源周辺ビジネスをシナジー効果を追求しながら強化し、鉱山業と一緒に成長させていきます。

そして3つ目が、重要成長戦略と位置付ける農林水産業への貢献です。アジアの経済成長により中間所得層が増えるに連れて食生活も高度化し、アジアにおける豪州産農林産品の需要は経済成長率以上のペースで増えると考えており、この分野の発展に戦略的に関わり、貢献していきます。

<会社概要>
●英文会社名: Mitsui & Co. (Australia) Ltd.
●企業形態:三井物産の現地法人
●代表者:高橋康志・三井物産常務執行役員/豪州三井物産社長兼ニュージーランド三井物産会長
●拠点:メルボルン、シドニー、ブリスベン、パース
●現地法人社員数:80人(大洋州内連結従業員数約250人)
●主な事業:鉄鋼製品、鉄鉱石、石炭、発電、鉱山機械事業、化学品、塩、石油、ガス、食糧、ウッドチップなど
● 主な子会社・関連会社:Mitsui Iron Ore Development、Mitsui Iron Ore Corporation、Mitsui Coal Holdings、Shark Bay Salt
<沿革>
1901年シドニー出張所を開設。第2次世界大戦前は豪州産の羊毛、穀物、鉱物を日本に輸出。戦後、55年に豪州に再進出。60年代には炭鉱、60〜70年代には鉄鉱石鉱山や塩、80年代にLNG事業、90年代には石油事業と豪州の資源産業の開発にパイオニア的に貢献。最近10年では、植林・ウッドチップ、発電事業、穀物集荷会社と参画事業分野を拡大。


<トップに聞く10の質問>
1. 座右の銘:「Hands on」「世界に、滅私奉公。」
2. 今読んでいる本:「バランスシート不況下の世界経済」リチャード・クー著
3. 豪州の好きなところ:人々の善良さ・大らかさ・遵法精神、自然の美しさ
4. 外から見た日本の印象:politeでdecentだが自己主張が弱く説明能力に欠ける
5. 好きな音楽:たくさんあり過ぎて選べません。
6. 尊敬する人:新渡戸稲造、クレスピ父子、マハトマ・ガンジー
7. 有名人3人を食事に招待するとしたら誰?:ノーコメント
8. 趣味:読書、美術鑑賞、ゴルフ
9. 将来の夢:ノーコメント
10. カラオケの十八番:たくさんあり過ぎて選べません。

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