川崎オーストラリア会社 Kawasaki (Australia) Pty. Ltd.

企業研究
同社のコア・ビジネスの1つ、コンテナ輸送事業

豪州企業への出資戦略が奏功異例の経営判断、不況も無傷

企業研究 117

川崎オーストラリア会社
Kawasaki (Australia) Pty. Ltd.

日本の海運大手3社の一角を占める川崎汽船の在豪現地法人、川崎オーストラリア会社は、自動車や資源、コンテナの輸送といったコア・ビジネスと並行して、港湾・荷役などの現地企業への投資によって成長を続けてきた。宮地譲・代表取締役社長に事業戦略を聞いた。

1919年設立の川崎汽船(本社・東京都港区)は第2次世界大戦後、日本経済の復興と高度成長とともに歩んできた。保有船の規模は、終戦時の12隻(3万1,111重量トン)から、現在では合計480隻(312億8,164万重量トン=2009年9月時点)まで拡大している。

コンテナや自動車、資源エネルギーなどの海上運送を中心に、コンテナ輸送で海と陸の接点となるコンテナ・ターミナル事業、陸海空の総合的な物流事業などを地球規模で展開する。本社の従業員は609人(陸432人、海177人)、連結の関連会社は国内26社、海外288社に及ぶ。

豪州へは、日本から自動車などの工業製品を主に輸送する一方、豪州から日本の積荷は鉱物資源などの一次産品が主力だ。相互補完的な日豪の経済関係を象徴するようなビジネスと言える。

コンテナの定期船は西海岸と東海岸へ、豪州産の鉄鉱石や石炭などを運ぶ不定期船は北西部と北東部のへき地へ、それぞれ就航。日本経済の存続に不可欠な資源を運び続けている。

また、豪州への自動車専用船の運航も1970年代から増加してきた。現在では自動車の比率が高く、最大で約6,800台積載できる専用船をシドニーとメルボルン、ブリスベン、アデレード、フリーマントルの5港に運航している。川崎汽船は史上初めて自動車専用船を導入した海運会社として知られ、特にトヨタ自動車との関係が深い。豪州では、GMホールデンとも独占契約を結んでいる。

船会社だけやっても儲からない

豪州では、海運の基幹事業のほかに、関連業界の現地企業に対する投資事業も重要な役割を担っている。こうした経営戦略は、宮地社長の方針によるもので、川崎汽船の海外ネットワークの中では非常に特殊な例だという。

オーストラリアには戦前から西豪州を中心に配船しており、現地法人を設立したのはちょうど40年前の1970年。以来、長年にわたって当時国営の海運会社だったオーストラリアン・ナショナル・ライン(ANL)と組んでコンテナ・サービスを提供していた。しかし、90年代後半に提携を終了したのを機に、現地企業への出資に注力するようになった。

宮地社長はこのころ豪州に赴任した。「船会社だけをやっていたのでは儲からない」と実感し、周辺事業への投資を模索した。手始めに、以前から出資していた会社の出資比率を変更して、経営を現地企業に一任するなどして経営改善を行うと、収益が上がった。それで得た利益で投資を繰り返して収益を拡大し、物流や港湾、荷役などの周辺事業を手がける豪州企業を次々と傘下に収めていった。

現在の川崎オーストラリア会社は、宮地社長を含めてわずか3人の体制で、持ち株会社的な位置付けだ。その下に、日本の川崎汽船の代理店である海運の事業会社、Kライン・オーストラリアがある。この本業と並行して、川崎オーストラリア会社は、物流大手トールや投資企業カプラン、港湾物流のパトリックと合弁または提携することにより、港湾荷役のP&O AGS、港湾施設のAAT、輸入自動車の現地化業務(PDI)を手がけるプリカーなどに経営参加している。

これらの投資によって、特に主力の自動車輸送のサプライ・チェーンを一貫して手がけることが可能となり、市場での影響力をさらに強固なものにしている。

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シドニー湾の港に停泊する最大6,800台輸送可能な自動車専用船

また、現地の荷役会社への投資によって、西豪州などに建設される新しい港湾施設の管理に関与することで、今後は鉄鉱石や石炭の運搬業務で優位に立つことも目指している。宮地社長は「これからのビジネスだが、面白いシナジー効果が生まれそうだ」と語る。

さらに、海運代理店業のモンスン・エージェンシーズに50%出資し、不定期船のへき地の港へのアクセスを可能にしたほか、モンスンの支店網を拡張させてほかの船会社と取引させることでさらに収益を拡大させている。

豪州の海運は世界市場の箱庭

こうした積極的な投資戦略が功を奏し、豪州事業は右肩上がりに成長、総資産は1億ドルの規模まで拡大している。世界的な金融危機もほとんど無傷で乗り切った。宮地社長はこう打ち明ける。

「豪州国内でも一時的に自動車の販売が鈍化したが、売れない自動車が施設内にとどまると保管費の売上が増えた。最近は、中国の資源需要の回復によって関連会社の業績が伸びている」。

昨年は不況の裏を突いて、総額1,200万ドルを追加投資した。投資先企業の株式をさらに買い増して出資比率を引き上げ、発言力の拡大を図った。

海運業のみに安住せず、周辺企業への資本参加によって、攻めの経営戦略を次々と打ち出す宮地社長。「日本で生まれ育った日本人だから、豪州人のビジネスは分からない」と謙遜するが、豪州の現状をどのように見ているのか。

「まだ成長の過程にあるから、投資機会がごろごろ転がっている。良い投資をすれば当たる。狙いが的中して儲けたマネーをまた次の投資に充てる。その良い投資先を探し出す上で重要なのは人脈だ」。

宮地社長の周辺には100%信用している3人の豪州人のビジネス・パートナーがいる。彼らの話に耳を傾けて投資を決断したことが利益に結び付いてきた。ただ、川崎汽船の現地法人である以上は、海運と関係のない事業には一切投資しない。現在では、海運の実務を事業会社の豪州人に任せ、全体の司令塔として投資効果の最大化に力を注ぐ。

また、豪州の海運市場の規模は小さいが、コンテナから資源、自動車までメニューが多いことが強みになるとも指摘する。「川崎汽船にとっては、世界市場のいわば『箱庭』みたいなもの。ここで何か新しいことに挑戦して仮に失敗しても傷は浅い。逆に成功すればそのビジネス・モデルをほかの市場で活かすことができる」からだ。

今後の課題はコンテナ関連のインフラ拡充だ。倉庫など施設の取得や増員などを視野に入れる。「海運業界では、儲かる時機が10年に1度来ると言われている。コンテナ市場は現在、運賃の値崩れが激しいが、厳しい時にこそ体制を整えたい」と、来るべき次の商機に見据えている。

宮地譲代表取締役社長

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1968年、学習院大学卒。同年、川崎汽船入社。79〜83年、メルボルンに駐在。93年、豪州現地法人社長としてシドニーに赴任、現在に至る。

【宮地社長に聞く10の質問】

① 座右の銘:なし
② 今読んでいる本:ケリー・グリーンウッド著「PHRYNE FISHER」シリーズ、細野不二彦著コミック「ギャラリー・フェイク」
③ オーストラリアの好きなところ:なし
④ 外から見た日本の印象:何事においてもソフィスティケイトされている
⑤ 好きな音楽:クラシック
⑥ 尊敬する人:乃木希典
⑦ 有名人3人を夕食に招待するなら誰:ジャクリーヌ・デュ・プレ、ヨーヨー・マ、キャサリン・ヒューギル(すべて著名チェリスト)
⑧ 趣味:チェロ演奏、バレエ鑑賞
⑨ 将来の夢:豪州での役目を終え、日本に帰ること
⑩ カラオケの十八番:なし

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