アシックス 第3回 スポーツ・シューズ編

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アシックス
第3回 スポーツ・シューズ編

英連邦スポーツで存在感光る
豪州発信で専用シューズ開発

日本では馴染みのないネットボールやクリケット。しかし、ここオーストラリアでは、競技人口の非常に多い国民的スポーツとなっています。こうしたコモンウェルス(英連邦)で人気が高い競技の専用シューズも、実はアシックスが得意とする分野。オーストラリアのアスリートの知見を商品開発にフィードバックすることで、顧客の信頼を得て高いシェアを獲得しているのです。

クリケット専用シューズのGELADVANCE3モデルを手にする池田新社長。「“スポーツ大国”でのシューズ開発と成功がグローバル市場での成功のカギを握っている」と、オーストラリア市場の重要性を語る。

英連邦スポーツの中心地

国境を越え、経済、文化などのグローバル化が加速するなか、団体競技の世界は今だに国や地域によって人気に大差があり、いくつかのブロックに分かれています。

北米は、野球とアメリカン・フットボール、バスケットボール、アイス・ホッケーが4大スポーツ。欧州と中南米、アフリカは、サッカーが主流で、単一種目では世界最大の市場規模があります。野球が国民的に親しまれ、最近はサッカーも人気がある日本は、その中間にあると言えるでしょう。

旧英国植民地からなるコモンウエルス(英連邦)諸国もまた、独特なスポーツ文化圏を形成しています。英連邦は53カ国で構成されており、実に世界人口の3分の1を占める巨大市場です。4年に1度の「コモンウエルス・ゲームズ」は、複数種目の国際スポーツ大会としては五輪に次ぐ規模があります。

中でもオーストラリアは「スポーツ・キャピタル・オブ・コモンウエルス(英連邦のスポーツ大国)」と呼ばれ、特にネットボールやクリケットでは指折りの強豪国となっています。

これらの「英連邦スポーツ」は日本で関心が薄いため見逃しがちですが、アシックスはその中心地であるオーストラリアから情報発信して、数十年も前からシューズの開発に取り組んできました。北半球のメジャー競技向けのシューズをそのまま持ち込むのではなく、オーストラリアのニーズに合った専用シューズを商品化してきたのです。


Netburner Super フットボール・シューズの最高峰モデル

女子競技人口最大のネットボール

「ネットボールって何だっけ ?」。普通の日本人ならそう思うのは無理もありませんが、オーストラリアでは最も人気が高い女子スポーツ。「簡単に言えば、ゴール背後のボードがなく、ドリブルがないバスケットボールのようなもの。オーストラリアでの競技人口は約150万人で、女子の団体競技では最大です」と語るのはアシックス・オセアニアの池田新あらた社長。14歳以下の女子では5人に1人がプレーしているということからも、その浸透ぶりがうかがえます。

そしてアシックスは、このネットボールのオーストラリア市場をほぼ独占しています。1988年に初めて専用シューズの開発に成功し、98年に主力商品「ネットバーナー」を発売。以来、改良を重ねてきた結果、現在の国内シェアは実に90%以上に達しているそうです。その秘密はどこにあるのでしょうか ?「オーストラリアのネットボールは屋外のアスファルトのコートが多く、耐久性が求められます。しかし、他社は北半球のインドア・スポーツ用に開発したシューズをそのまま流用していましたので、ソールがすぐに擦り減り、ヘビー・ユーザーなら1カ月と持ちませんでした。その点、アシックスは技術力を駆使して使用状況に合った専用シューズを開発したのです。価格は割高ですが、耐久性が高く、シーズンを通して使用できるのでモトも取れるのです」(池田社長)

商品開発はオーストラリア主導です。同社でシューズのテクニカル・アドバイザーを務めるシェーン・ダッシュさんはこう指摘します。「アスファルトのコートに対応するため、耐久性の高いソールや衝撃吸収性の高い素材を駆使しました。オーストラリアのネットボール全国リーグの協力を得て研究し、その成果を日本の本社にフィードバックしています。出来上がったサンプルを選手に試してもらい、また改良を繰り返して商品化していくのです」

ネットボールはバスケットボールと比較するとドリブルができず、ボールを持ったまま1ステップしか移動が許されないので、特にアスファルトのコートでは脚に負担がかかります。アシックスはこの点を開発の課題として研究を重ねた結果、豪州スポーツ医学協会(SMA)から推奨を得たり、アシックスが豪州ネットボール協会のスポンサーであることを訴求したりしました。

ネットボール豪代表のキム・グリーン選手

英連邦で根強い人気のクリケット

クリケットも日本人には馴染みの薄いスポーツですが、オーストラリアの男子団体競技としてはフットボールと肩を並べる人気スポーツ。長時間のゲームをビール片手にのんびり観戦するのは、オーストラリアの夏の風物詩となっています。

アシックスはクリケットのシューズにおいても、オーストラリアで強い基盤を築いています。「正確なデータはありませんが、市場シェアはおそらく30%程度で1位でしょう」と池田社長。ファスト・ボーラー(直球投手)やスピン・ボーラー(変化球投手)などそれぞれのポジション別に専用シューズを開発しています。「クリケットは国の代表チームの対戦が注目されるスポーツです。オーストラリアのクリケットでアシックスが存在感を示せば、国内だけではなく世界的なブランド認知度の向上につながります」(池田社長)。今後の経済成長が見込め、市場規模も大きいインドでもオーストラリアの有名プロ選手は人気が高いそうです。「私たちのオーストラリアでの成功をほかの英連邦諸国のビジネスにも生かしていきます。オーストラリアは人口約2,200万人と比較的小さな市場ですが、スポーツの世界では強い存在感があります。オーストラリアで専用シューズを開発できるというアシックスのユニークな戦略は、北半球の大手メーカー各社に対するアドバンテージと言ってもいいでしょう」

グローバルな展開が比較的容易な家電製品や自動車などの耐久消費財と異なり、スポーツ用品は地域によって文化的な偏りが大きい分野。アシックスは、オーストラリアでの成功をさらに英連邦市場でのシナジー効果につなげているのです。その戦略は、日本のモノ作りの新たな方向性を示していると言えそうです。


2009年のCricketer of the Yearにも輝いたオーストラリアを代表するファスト・ボウラー、ミッチェル・ジョンソン選手

スポーツ医学に基づくフットボール専用シューズ

特に英連邦に限定されるわけではありませんが、オーストラリアで人気が高いスポーツとしてはフットボールがあります。

日本でも一般的なラグビー・ユニオン、オーストラリアで独自に発展したラグビー・リーグ(NRL)とオーストラリアン・フットボール(AFL)のラグビー系3競技、そして近年人気が高まっているサッカーがそれに含まれます。

アシックスは、ソールやスパイクの形状、天然皮革(牛、カンガルーなど)や日本製の高性能な合成皮革などの表面素材を工夫して、それぞれのフットボールの特性に合わせた専用シューズを投入。オーストラリアやニュージーランドで活躍する有名選手をスポンサーして開発に役立てています。シェアは大手2社に次いで3位ですが、急速にその差を縮めつつあるそうです。

フットボール専用シューズには、足の下肢とアキレス腱、膝腱への負荷を和らげる厚さ10ミリのミッド・ソール「HG10MM」を採用。スポーツ医学に立脚した設計思想に基づいて開発されたSMA推奨シューズであることがポイントです。

販売店「アスリート・フット」と共同で、成長期の子どもに多い「踵骨骨端炎」の予防キャンペーンも実施しています。ミッド・ソールの素材やデザインなど衝撃を緩和する機能を持ったシューズを紹介することで、スポーツによるケガの防止にも力を入れています。

厚さ10ミリのミッド・ソール「HG10MM」

五輪のフィールド・ホッケーでシェア1位

オーストラリアは2年前の北京五輪のフィールド・ホッケーでも、男子が銅メダル、女子も5位と活躍しました。

アシックスはフィールド・ホッケーの分野でも世界的に高いシェアを獲得しています。池田社長によると、北京五輪のフィールド・ホッケー競技でのアシックス専用シューズの使用率は男子で30%、女子で40%といずれも1位となっています。

アシックスはランニングやフットボールといったメジャーなスポーツから、フィールド・ホッケーやインドア・サッカーといったマイナーなものまで、全部で223種のモデルをオーストラリア市場に投入しています。

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