2016年、フォード現地生産から撤退─フォード・オーストラリア

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VIC州で現地生産しているフォード・ファルコン(Photos:-Ford-Motor-Company)
豪州企業名鑑

 

第9回
2016年に現地生産から撤退へ
国産車ファルコン、販売急減

 

フォード・オーストラリア
Ford Australia

 フォード・オーストラリアは、米自動車大手フォードの子会社フォード・カナダの豪州法人である。主力の国産車「ファルコン」は半世紀以上にわたり豪州を代表するファミリー・カーとして親しまれてきたが、ここ数年は販売台数が急速に落ち込んでいる。高い事業コストを背景に赤字も膨らんでいることから、2016年には現地生産から撤退する。
■会社概要
企業名———————– Ford-Motor-Company-of-Australia-Limited
本社————————– VIC州キャンベルフィールド(メルボルン郊外)
創立————————– 1925年
最高経営責任者(CEO)- ロバート・グラツィアーノ氏
従業員数——————– 約3,000人
親会社———————– フォード・モーター・カンパニー・オブ・カナダ
工場————————– VIC州ジローン、同ブロードメドウズ(2016年閉鎖予定)

 


■沿革


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ロバート・グラツィアーノ最高経営責任者(CEO)

1904年に豪州初のフォード車を輸入。25年にはフォード・カナダ(フォード・モーター・カンパニー・オブ・カナダ)が子会社フォード・オーストラリアをVIC州ジローンに設立し、当時のベストセラー車「T型フォード」の現地生産を開始した。各地に製造拠点を拡大し、部品やエンジンを輸入して完成車を組み立てた。第2次世界大戦中は軍用車両や上陸用船艇なども生産した。

親会社がフォード・カナダだったのは、同社が英連邦諸国(英国とアイルランドを除く)の輸出・販売権を持っていたからだ。フォード・カナダはかつて米フォードとは資本が異なる別の会社だった。米フォードがフォード・カナダの全株式を取得するのは2003年になってからのことである。こうした経緯から、現在もフォード・オーストラリアは名義上フォード・カナダの子会社となっている。

外資のフォードが豪州のブランドとして親しまれるようになったのは、ファルコンの人気によるところが大きい。1960年、販売拡大を図るため米ファルコンの生産をメルボルン北郊ブロードメドウズの工場で開始した。初代ファルコンはライバルのホールデンより現代的なデザインが受けてヒットした。セダンからステーション・ワゴン、「ユート」と呼ばれる小型トラック・タイプ、バンへと車種も拡大した。

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1960年に発売された初代ファルコン

ファルコンは米国で70年に生産中止となった後、豪州専用モデルとしての性格を強めた。海外メーカーの商品でありながら、ライバルのホールデンと人気を二分する国民車的な存在として豪州人に広く親しまれた。最盛期の90年代半ばには派生車種を含めて年間約10万台を生産し、8,000台以上を輸出した時期もあった。2004年にはファルコンの車台を流用したスポーツ・ユーティリティー・ビークル(SUV)「テリトリー」の生産も開始した。

 


■現況


ところが、ファルコンとGMホールデンの「コモドア」の国産大型車は近年、国内販売が減少している。とりわけファルコンの不振は著しく、連邦自動車工業会(FCAI)によると12年の国内販売台数は前年比約25%減の1万4,036台まで落ち込んでいる。

豪州の新車販売台数は12年、前年比約10%増の111万2,032台とリーマン・ショック前の07年の過去最高を更新した。フォード車全体では9万408台と前年比0.9%減、09年比6.3%減とファルコンほど大きく落ち込んではいない。現在のフォード・オーストラリアの主力は海外生産車となっており、国産のファルコンが減少している分、輸入車が増加した形となっている。

国産大型車の販売が低迷している最大の要因としては、ガソリン価格の上昇で燃費の低い輸入小型車の販売が拡大していることがある。豪ドル高や自動車関税の引き下げ(現在5%、自由貿易協定=FTA=締結国を除く)を背景に輸入車の価格競争力が拡大していることや、需要の中心が大型セダンからSUVや小型トラックに移行していることも響いている。

このためフォード・オーストラリアは5月23日、ジローンとブロードメドウズにある2工場を閉鎖し、ファルコンなどの現地生産から撤退すると発表した。工場従業員約1,200人を削減するが、販売部門など1,500人の雇用と国内約200カ所の販売網は維持する。過去6年間の赤字が約6億ドルに達していて、コストが高い豪州での現地生産は「長期的に持続不可能」(ロバート・グラツィアーノ最高経営責任者=CEO)としている。

 


■展望


フォードは現地生産を打ち切るものの、16年までに豪州市場での取り扱い車種数を30%増やすなど拡販を目指す。高い出生率や移民受け入れを背景に豪州の人口は今後も増加していく見通しで、新車需要は年間100万台以上の水準を維持しながら拡大していくと見られる。

ただ、FCAIによると、豪州市場で流通している自動車ブランドの数は67と、米国の51や英国の53よりも多いという。人口約2,300万人と世界的な水準から見ると狭い市場に数多くのモデルがひしめき合っていて、販売競争は激しい。

国内の自動車製造業はフォードの現地生産撤退後、トヨタとGMホールデンの2社体制になる。自動車産業は雇用の受け皿が広いことから、連邦政府は巨額の補助金を投じて現地生産の維持に努めてきた。しかし、競争力の低い特定産業を税金で延命させる政策には批判もある。

これに対して、自動車業界は豪州の補助金の水準は妥当だと反論している。FCAIによると、豪州の国民1人当たりの自動車産業への補助金(08/09年度)は20米ドル以下と、米国の約250米ドル、フランスの約150米ドルなどと比較して低水準にあるという。

雇用を守るために産業を保護するのか、市場原理に基づく自由競争を優先するのか。政策の方向性については議論があるが、資源ブームの副作用である通貨高やコスト高が国内産業の空洞化を招いていることは疑いの余地がない。フォードの現地生産撤退発表は、豪州経済が抱える構造的な問題を改めて浮き彫りにしている。

 

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