第10回 クラウン・リミテッド シドニーにVIP向け超高級ホテル

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シドニーのダーリン・ハーバーに計画中の超高級カジノ(左)と再開発地区「バランガルー」の完成予想図
豪州企業名鑑

第10回

メディア帝国4代目、カジノ専業に転進
シドニーにVIP向け超高級ホテル建設へ

 

クラウン・リミテッド
Crown Limited

 クラウン・リミテッドは、豪州屈指の富豪ジェームズ・パッカー氏が率いる大手カジノ運営企業である。ジェームズ氏は父の故ケリー・パッカー氏から受け継いだメディア権益を手放し、カジノ事業に注力している。シドニーに富裕層専用のカジノを併設した超高級ホテルを建設する計画も実現に近付いている。
■会社概要
企業名———————– Crown-Limited
本社————————– メルボルン市内サウスバンク
創立————————– 2007年(パブリッシング・アンド・ブロードキャスティング・リミテッドから分離・独立)
取締役会長—————– ジェームズ・パッカー氏
売上高———————– 28億887万ドル(14.2%増)
純利益———————– 5億1,332万5,000ドル(52.8%増)

 


■沿革


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ジェームズ・パッカー取締役会長

源流は、ジェームズ氏の祖父フランク・パッカー氏が1936年に設立した出版大手「コンソリテーテッド・プレス」(CP)にさかのぼる。CPはシドニーの日刊紙「デイリー・テレグラフ」と女性週刊誌「オーストラリアン・ウーマンズ・ウィークリー」などを発行した。56年には国内初のテレビ局をシドニーに開局して放送事業にも参入し、民放「ナイン・ネットワーク」の前身となる全国ネットを設立した。

後に社名を「オーストラリアン・コンソリテーテッド・プレス」(ACP)に変更。72年にデイリー・テレグラフをライバルの「メディア王」ルパート・マードック氏が率いるニューズ・リミテッド(現在の米ニューズ・コーポレーション)に売却した。同年、女性誌「クレオ」を創刊した。

フランク氏が74年に死去すると、ACPは次男ケリー・パッカー氏が後を継いだ。ケリー氏は88年に「ウーマンズ・デイ」などの雑誌をメディア大手フェアファクスから買収するなど勢力を拡大し、マードック氏に並ぶメディア王の地位を不動のものにした。94年には出版と放送の事業を「パブリッシング・アンド・ブロードキャスティング・リミテッド」(PBL)に統合した。PBLはカジノ事業にも手を広げ、99年にメルボルンのクラウン・カジノ、2004年にパースのバーウッド・カジノをそれぞれ買収した。

ケリー氏は05年に68歳で他界し、1967年生まれの長男ジェームズ氏が30代で一族のメディア帝国を引き継いだ。

ジェームズ氏は1919年にシドニーで新聞を創刊した祖父フランク氏の父ロバート・パッカー氏から数えて4代目。シドニーの高校を卒業した後は大学に進学せず、北部準州にあるケリー氏所有の牧場で牛飼いとして修行した異色の経歴を持つ。後に豪通信大手ワン・テルの役員を務めたが、2001年に経営破たんした。ワン・テルに出資していたPBLは3億ドル以上の損失を出し、初期のキャリアに汚点を残した。

ケリー氏の死後、ジェームズ氏はメディア資産の売却を進める一方で、マカオの施設に合弁で投資するなどカジノ事業に注力した。06年にナインなどPBLのメディア関連資産全体の50%を手放し、07年にはPBLのカジノ部門をクラウンとして分離・独立させた。一方、ケーブルテレビの権益など残りのメディア資産をメディア投資会社のコンソリテーテッド・メディア・ホールディングス(CMH)に集約した。

そのCMHも12年11月にマードック氏米ニューズに売却し、ジェームズ氏は3代続いたメディア事業からほとんど手を引いている(個人で保有する民放「テン・ネットワーク」の株式8.9%を除く)。なお、経済誌BRWが5月に発表した今年の豪資産額ランキングによると、ジェームズ氏の資産額は約60億ドルで3位となっている。

 


■現況


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メルボルンのクラウン・カジノ

国内では現在、メルボルンとパースの2都市にカジノ、高級ホテル、レストラン、劇場などを併設した複合リゾート施設を100%所有、運営している。海外ではロンドンで超高級カジノを100%所有、運営しているほか、07年のクラウン分離以降はアジアへの投資にも力を入れている。マカオのカジノ施設「シティ・オブ・ドリームズ」を運営する「メルコ・クラウン・エンターテイメント」の権益(33.7%)に投資、メルコ・クラウンを通して、60%の権益を持つマカオのカジノ開発事業「スタジオ・シティ」や、フィリピンのマニラのプロジェクトなどにも参画している。

同社の2012年6月期の通期決算は大幅な増収増益だったが、2012年12月期の半期決算は売上高が前年同期比1.1%増の15億1,047万5,000ドル、税引後の最終利益が34.1%減の1億8,077万5,000ドルと振るわなかった。国内事業は消費マインドの低下を背景にVIP向けを中心に低調だった一方、マカオの合弁事業は引き続き順調に推移している。

 


■展望


ジェームズ氏が進める開発計画「クラウン・シドニー・ホテル・リゾート」について、NSW州政府は7月4日、承認に向けた作業を次の段階に進めると発表した。州政府は「最終的な認可ではない」としているが、プロジェクトは実現に向けて動き出した。

計画によるとクラウンは、市内ダーリン・ハーバー東岸の再開発地区「バランガルー」内に超高級カジノや「6つ星」のホテル(350室)、マンション(80室)、レストランなどが入る複合施設などを建設する。カジノは電子遊技機を置かず、掛け金の高いVIP専用のテーブル・ゲームのみとする。アジアの富裕層をターゲットとする。

シドニーでカジノ「ザ・スター」を運営する同業のエコー・エンターテイメントも対抗案として既存施設の改装計画を提示したが、州政府は「エコー案よりも州内総生産への寄与度が26%、税収が31%、それぞれ多く見込める」とクラウン案を採用した。州政府は承認を進めるための条件として、ライセンス手数料1億ドルの前払い、ギャンブル税率を売上高の29%とすることなどをクラウンに求めた。ライセンスの規定上、クラウンが新カジノの営業を開始できるのは早くても2019年以降になる。

州政府によると、営業開始後に1,250人の雇用創出が見込め、2025年の州内総生産を年間4億4,200万ドル押し上げる効果が期待できるという。ただ、計画は予想される建設費を公表していない。

ジェームズ氏は「世界中の誰が見ても一目で分かってもらえるようにする」と述べ、未来的な弓形の高層ビルをオペラ・ハウスに匹敵する象徴的な建築物にしたい考えを明らかにした。

父の死から8年。ケリー氏の息子としてではなく、ジェームズ氏が名実ともに豪州の代表的な経営者として評価されるどうか。それもプロジェクトの成否にかかっていると言えそうだ。

 

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