日本を堪能 -(2) 食に関する考察編

興味があるもの何でもリポート!
BBKの突撃・編集長コラム 不定期連載 第22回

青森県八戸市出身で子どものころから海産物を食べ続けてきた父親が「ここは美味しい」として推す寿司屋の盛り合わせ。ここまでのネタはシドニーではなかなかお目にかかれない(東京・新橋「橘鮨」)

久々日本をがっつり堪能 (2)
「食に関する考察」編

iPhoneに搭載されている「リマインダー」というアプリをご存じだろうか。自身で設定した項目ごとに覚えておきたいことをリスト化できる「覚え書き」アプリだ。普段、いろいろなことを思い付いてすぐに忘れる僕はこれをフル活用しているのだが周囲で活用している人は意外に少ない…というか見たことがない。

このアプリ、「メモ帳だと情報の整理がしづらいけど、多機能のタスク管理アプリなどを使うのはなんか面倒くさい…」という几帳面さとズボラさを同時に持ち合わせているような人にとっては実に使い勝手がいい。そう、僕のような。

もともとある「Reminders」の項目には「○日にどこそこから入金あり」など当たり前のことを書いているが、それ以外に例えば、休暇中、仕事のことで思い付いたことをとりあえず書いておく「帰ったらやる仕事」(書くことでひとまず忘れてしまえるのも精神衛生上良い)や、思い付いた企画を書いておく「ネタ」、抑えておきたいテレビ番組、日本帰国時に買うもののリストなどさまざまなオリジナルの項目を作って管理している。とまあ、こんな感じでアプリを活用することで覚えておかなければならないことを頭からリリースし脳内を単純化できていることで僕の精神衛生状態はまっとうに保たれているのだろう(多分)。実際、「あれ、なんだっけ?」などと思い出す時間って実は人生においてかなり無駄だと思うので、もしこういった方法を試したことがないようであれば一度トライしてみてはいかがだろう。

さて、今回、日本旅行・グルメ編的な回であるにも関わらず、冒頭から脱線してしまったが、実はそのきっかけは「リマインダー」内の「ネタ」の中にずいぶん前に書いた「人はいつからグルメに走るのか」という一文を見つけたことに端を発する。コアな読者の方はご存知だと思うが、日豪プレスでは2014年3月より断続的に「食」に関する連載「豪州の食と安全」シリーズを続けている。牛肉、シーフード、米、野菜・果物、最近では鶏・卵と毎回テーマを変え掘り下げているが、それもひとえに僕自身が食の安全性や本当に美味しい食材などの情報に対する探求心を強く持つようになったことがきっかけだ。


青森県八戸市ではデパートの地下でもホヤやナマコなど珍しいものも取りそろえられている。三陸の海の幸を存分に味わうことができる(青森・八戸「三春屋」)


ウニや帆立、ムール貝や海老など海の幸がふんだんに入った「磯ラーメン」。ほかでは食べられない絶品メニュー。このためだけに行っても後悔はさせない(青森・八戸「小舟渡」)


新鮮な生ウニがふんだんにまぶされたウニおにぎり。これもなかなかの贅沢な一品。こういったメニューはやはりその土地に行かなければなかなか楽しめない(青森・八戸「小舟渡」)

実は、僕はもともとは「食」にはさほど強い関心がなく、どんなものも普通にうまいと言いながら食べてきたタイプだ。誰かとご飯を食べに行く際にも、行き先はイタリアンだろうが和食だろうが焼肉だろうがお酒さえ楽しく飲めれば何でも同じだと思っていたし、食事なんてある一定レベルを超えればどこで何を食べても質はさほど変わらないと思っていた(だからこそ、女の子を連れていくお店選びに困ることもしばしばだったが)。だが、ある時から僕の舌は急に大人になり「味」の違いが分かるようになってきたのである。

「食」への意識が一歩前進したのは自身の結婚披露宴の会場選びをしていた30代前半のころだ。パーティー会場を検討しているカップルは通常より安くディナー・コースを食べられる店が多いため、その機会を利用し僕らはいくつか高級レストランにも足を運んだ。中には料理の鉄人に勝利したことのあるフレンチ・シェフの店もあったが、総じて僕はそれらの店の料理のクオリティに圧倒された。この体験は僕の「食」に対する意識を大きく変えた。5,000円のコースだろうが、3万円のコースだろうが一定レベルを超えれば全部同じなどと当時の僕は思っていたが明らかな違いを知ったのだ。

コラムでも何度か書いてきた通り来豪後は生活を安定させることに必死でグルメどころではなかった。ランチは毎日スーパーで買った食パンにチーズをはさんだサンドウィッチ、たまの外食も基本節約モード。その時期、僕は食への渇望力を蓄えていたと言えるかもしれない。

「食」の連載開始に伴い、僕はさまざまなものを自作するようにもなった。ラーメンをスープから作ったり、魚をさばいて刺身にしたり、ウニやサザエを自分で取って調理したり、最近では寿司も自分で握るようになった。このような活動を通して、僕はいつしかグルメに明るくなっていった。

日本は何でも美味しい?

さて、シドニーでの食生活にも満足している状況の中、日本へ帰国したわけだが、当然ながら自分の舌が日本国内でどのように反応するかということには大変興味があった。「日本はやはり違う」と思うのか、あるいは「さほど変わらない」と思うのか。


シドニーではまだ食べられるお店はないであろう「油そば」。日本でもこの店の「油そば」が僕の中での最強。ちなみに近い味は僕も出せるようにはなっている(東京・早稲田「東京麺珍亭本舗」)


豚骨、鶏ガラ、魚介、野菜などさまざまな選りすぐり食材から作られたスープはあまりに絶品。大行列にも納得(東京・飯田橋「めん徳二代目つじ田」)


横浜家系総本山にも久々に行ってみた。本家の味は分家よりも醤油が強い。相変わらずのパンチ。いつかシドニーでも食べられるようになりたい(神奈川・横浜「吉村家」)


全国丼グランプリ親子丼部門で金賞を受賞したこともある地元・神楽坂の名店「鳥茶屋」の人気ランチメニュー「親子丼」(東京・神楽坂「鳥茶屋 別邸」)


本文中でも触れているが、日本橋で昭和6年創業の洋食屋「たいめいけん」のチキンカツ。ここはオムライスも人気だが、僕はこれを推したい(東京・日本橋「たいめいけん」)


今回、知人に教えられていったトンカツ屋の「特上ロース」。豚がほんのりとピンクで、きめ細かく柔らかいのだがそれが写真で伝わるといいが…。激ウマ(東京・高田馬場「とん太」)

前回コラムは大阪への訪問で幕を閉じたが、その後僕らは祖母宅のある青森県八戸市へと飛んだ。八戸は海産物の宝庫で、市場まで行かずとも、デパートの地下の海産物売り場などでも水揚げしたばかりの魚や貝などが豊富に並んでおり目を奪われる。今回はシーズン外れにも関わらず僕の大好きなホヤもあり、また大好物の筋子も山と積まれていた。この光景はシドニーにはない。シドニー・フィッシュ・マーケットは世界で2番目に水揚げされる魚の種類が多いと言われているが、貝類や魚卵系となると途端にバリエーションが少なくなる。僕としてはその点が少々残念だ。

さて、八戸で特別に1軒だけお勧めしたい店がある。「懐石料理処小舟渡」だ。海の上にせり出して建っているため、津波の被害が甚大で一時営業を休止していたが、今回訪ねた際には復活していた。テレビでもたびたび取り上げられる名店で、僕はここの「磯ラーメン」と「ウニおにぎり」を超絶に推したい。ウニや帆立、ムール貝、海老、海藻が豊富に盛り付けられ、海の幸の上品なダシの塩ベースのスープに細ちじれ麺がよく合うのだ。ウニを全体にまぶしたウニおにぎりも絶品。この組み合わせは最強だ。

さて、今回、右列に並んでいるように日本で訪れたいくつかのお店の中から注目メニューをピックアップし写真とキャプションで紹介、および考察を加えていくが、総じて日本で僕が感じたのは日本の美味しいお店は仕事が非常に細かく丁寧だということ。新鮮な食材を用意し、丁寧に仕込みをし、丁寧に調理し、それをきれいに盛り付けて提供する。1つ1つの仕事をきっちり丁寧にやっているというのがとにかく全体的な印象だ。

よく「日本は何でも美味しい」という言葉を聞くが、どこで食べても美味しいわけでは当然なく、価格帯の安い大衆店の味は当然それなりだ。ただ、やはり日本で美味しいとされている店はどこもやはり極めて質が高かった。中でも、僕が感動したのは日本橋にある昭和6年創業の洋食屋「たいめいけん」のチキンカツだ。チキンカツ&デミグラス・ソースと言えばある程度の味の想像がつくものだが、その想像を思い切り上回ってきたことに感激した。若いころにも食べたことがあるはずなのだが、あのころの僕の舌は未熟だった。鶏肉を丁寧に開いて揚げている行き届いた処理、衣の揚げ具合、そして何より複雑な味のソース、どうすればこの料理を再現できるのか正直、僕には想像がつかない。食体験の中で自分の想像を超えてくるというのは実に新鮮で嬉しかった。思わず声が出そうになったのも久々の体験だった。

日本の食は実に多様な進化を遂げており、ひと口に日本食と言ってもさまざまなタイプのものがある。例えば「たいめいけん」は洋食だが、厳密には独自進化を遂げたジャパニーズ洋食である。また、いわゆる街のスパゲッティ屋さんの豊富なメニューもイタリアンから独自進化したもので、日本でしか食べられないものが少なくない。いわゆる純粋な日本食という観点から言うと、シドニーでも美味しいものは結構食べられるが、独自進化したジャパニーズ洋食のようなものは残念ながらあまり見受けられない。その辺りはやはり日本に帰国した時にこそ楽しめるものかもしれない。

ところで今コラムを読んでいる読者の中には来豪から日が浅く日本と同じような食生活ができないことを不満に感じている人もいるかもしれない。そのような人に伝えておきたいのはその心配は杞憂だということ。多文化共生をうたうだけあり、オーストラリア、とりわけシドニーは食の宝庫。上のように書きはしたが、日本食で食べられないものはさほど多くないことを伝えておきたい。ぜひ日豪プレスのウェブサイトなどで情報を集めてみてほしい。

さて、最後にあくまで個人的な意見として追記するが、いわゆるビストロ的なお店や純洋食のお店に関して言えば、僕はシドニーのほうが日本より当たりの店が多いような印象を持っている。最も、検証例が少ないので何とも言えないが、そのあたりのことも今後掘り下げながら考えてみたいと思う。

<プロフィル>BBK
2011年シドニー来豪、14年1月から編集長に。スキー、サーフィン、牡蠣、筋子を愛し、常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者。齢30後半♂。読書、散歩、晩酌好きのじじい気質。

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