夏の芝刈り その2

夏の芝刈り

第43回
夏の芝刈り その2

文=加納寛之
 先月号で私が芝刈りをするのを楽しみにしていることを書きました。芝刈りをしている間は、モーターの轟音、それを防ぐ耳あてもしているので、ほとんど何も聞こえません。日ごろの喧騒、雑事から一時心を開放してくれる時間でもあります。暑い日差しも、終わった後のビールのおいしさを思えばもっと照りつけろ ! とさえ思うほどです。
 しかし、年始に日本に帰省した私たち。ブリスベンに戻ると、家の庭はクリスマスごろから降り続いた雨、そしてその後の日照りで、見るも無残な状態に。芝は伸び、植木も乱れ、雑草もあちこちにはびこっています。それを見た瞬間、血が騒ぎました。
 スーツケースの中身を片づけるのもさておき、さっそく芝刈りを始めた私。植木を短く切り、歩道にはみ出した芝もきちんと整え、全体に芝を刈って、最後に掃除。さすがに夜行便で帰ってきた身にはこたえましたが、きれいになった庭を眺めながら飲む冷えたビールを楽しみに、シャワーを浴びに風呂に入りました。
 そこで惨事は起きました。石鹸の泡で足を滑らせ、とっさに手を付くもそこに壁はなく、私はシャワーの栓で目元を強打してしまいました。あまりの激痛に思わず目をつむってしゃがみこんだ私、しばし経って目を開けると、床が血だらけではありませんか。
 私は血を見ると本来の姿、小公子セドリックに戻ってしまいます。何が起きたのか自分でもよく分からず、目をしばたくばかりでしたが、しばたけばしばたくほど、血が出てきます。気が遠くなる前にと、急いで婆や、じゃなくて妻を呼び、一応の止血をしてもらって体をふき、横たわる。こんな時、女は強いものです。「きゃー」とも言わずに無言でいます。怖かったので、妻の言う通りにしておこうと思い、少し休んでから、救急病院に急ぎました。
 どうやら頭の方は大丈夫でしたが、顔の傷は5針を縫いました。頭を打ったら仕事ができなくなるし、顔に傷が残っては、お客さんにヤクザかと思われてしまいます。病院の待合室で娘は寝てしまい、当然ながら私のビールはお預けです。妻には、多少芝が伸びていようが体を休めるようにと怒られ、自分でも「これからは誰かに芝刈りを頼もうかな」と、ちょっと弱気になった出来事でありました。


プロフィル
かのうひろゆき●ブリスベン歴7年半。日・米・豪3カ国の弁護士。弁護士歴12年NY留学中の2001年に9・11テロを体験後、ブリスベンの青空に心を癒され永住を決意。モットーは仕事も遊びも全力投球!週末は妻、娘(5歳)と一緒に愛犬モモの散歩でリフレッシュ。犬連れのアジア人家族を見かけたらそれが僕たちかも ?

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