ちゃっかり者

ちゃっかり者

第44回
ちゃっかり者

文=加納寛之
 今ブリスベンにいる人々は、激しい雷の音に、思わず首をすくめているに違いありません。なぜならこれを書いている私も、あまりに激しい轟音に、去年買ったばかりのパソコンがやられてしまうのではないかとビクビクしているからです。でも締切りに間に合わなかったら日豪プレスの編集部から雷が落ちてしまいますし、今月号を楽しみにしている皆さんが流す涙でクイーンズランドのダムが溢れてしまい、ブリスベン一帯が洪水になって結局私のパソコンも水に浸かってしまいますから、やむを得ません。
 さて、今、私の足元にはこれまたビクビクしている犬のモモ。モモは、庭で虫をつつくマグパイ、屋根を上るポッサム、外を歩く知らないおじさん、夕方散歩をするベビーカーにまでテリトリーを主張して吠え、そのたびに我々をいたく恐縮させるくせに、雷には戦わずして負けを認めてしまいます(戦ったら負けると知っているところはさすが、賢いラブラドール・レトリーバーですね)。稲妻が光っただけで、あわてて書斎に走って来ると机の下に逃げ込み、嵐が去ってしばらくしても、細かく震えたまま出てこようとはしません。どうやら私の足に体を押し付けることで少しばかり不安が和らぐようです。家の中ではいつもモモ用と決めたスペースから出ることを許さないのですが、嵐の時は特別に許してやることにしています。
 しかし、何年か前にこれを許してからしばらく経ったある冬の早朝のこと。仕事をしようと書斎に行くと、その奥の部屋からいびきが聞こえたことがありました。びっくりして行ってみると、なんと、客用ベッドの上にのうのうと丸くなって眠るモモがいたのです ! 思い切り叱り、それからモモには油断できない、と思うようになりました。
 先日、妻が既にやったことを知らずに、私がモモに餌をやってしまった時だってそうです。ラブラドールというのは、病気を持つ人を介助したり、盲導犬になったりする犬です。トイレに座って用を足し、流すところまでできる猫がいるわけですから、モモにだってパソコンを使うなり、墨をすり筆を持つなりして、「ご主人様、今朝はもう既に奥さまよりいただきました。もったいのうございます」と、伝えることができたはずなのです。なのに、もらっていないような顔をして尻尾を振り、2食分平らげた彼女。太るわけです。
 いつか原稿をモモに書いてもらえるよう、訓練したいと思います。


プロフィル
かのうひろゆき●ブリスベン歴7年半。日・米・豪3カ国の弁護士。弁護士歴12年NY留学中の2001年に9・11テロを体験後、ブリスベンの青空に心を癒され永住を決意。モットーは仕事も遊びも全力投球!週末は妻、娘(5歳)と一緒に愛犬モモの散歩でリフレッシュ。犬連れのアジア人家族を見かけたらそれが僕たちかも ?

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