【新連載】オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第1回:同性カップルの子どもの声に耳を澄ます

ゲイビー(gayby)という言葉をご存知だろうか。「ゲイ(gay)」と「ベイビー(baby)」を合わせた言葉で、同性カップルの家庭に育つ子どものことを指す。多くの同性カップルが子どもを持つようになり、現在はベビー・ブームならぬゲイビー・ブームの時代とも言われている。そんな子どもたちの声に耳を傾けたオーストラリア映画『Gayby Baby』が話題だ。

「ゲイ家庭に育つ子どもたちを、彼ら自身の視点で描いた初めてのドキュメンタリー映画」と説明するのは、監督のマヤ・ニューウェルさん。彼女自身も2人の母親に育てられた。

切れ長の黒い目に、まっすぐに切りそろえられたまっ黒な前髪。快く取材に応じてくれたニューウェルさんは、私が日本人だと分かると、「ドナーが日本人だったんです」と嬉しそうに話してくれた。母親の友人だった日本人男性が精子ドナーとなり、ニューウェルさんが生を受けた。

「映画の構想は、時間をかけて培ってきたものです。私は長い間、自分の家族に対する批判的なコメントを聞き続けてきました。子どもには父親と母親が必要だという議論も繰り返し聞いてきました。でも、そういった議論は仮説にすぎません。そろそろ子どもたち自身の声に耳を傾けるときです」

実際この作品は、ナレーションも含め、すべてが子どもたちの言葉で語られている。カメラは子どもたちの日常を追い、彼らの声がストーリーを作り上げている。

登場するのは、10歳から12歳の4人のゲイビーたち。プロレスの大ファンであるガス。歌手を目指して舞台芸術専門ハイ・スクールの受験に臨むエボニー。読み書きが苦手なグレアム。ゲイの母親が信仰するカトリックの教えに疑問を持つマット。同性カップルの子どもたちが抱える問題や夢は、父親と母親を持つ子どもたちのものと何も違わない。

2人の父親は、養子に迎えたグレアムに必死に読み書きを教える。エボニーの母親たちは、てんかんの発作を繰り返す下の子を心配しながら、エボニーの夢を叶えようと応援する。思わず笑ってしまうほど鋭い口答えをするガスを、2人の母親がたしなめる。どこの家庭にでもある親子の風景だ。

本作品のプロデューサー、シャーロット・マーズさんは、「政治的な映画にはしたくはなかった」と言う。映画を観ればわかるが、押し付けがましさは全く感じられない。ユーモラスな視点が笑いを誘い、コメディー映画のようだ。上映中の会場も、終始笑いに包まれていた。

こんな映画が、8月末にメディアをにぎわせた。ニュー・サウス・ウェールズ州のエイドリアン・ピッコリ教育相とマイク・ベアード州首相が、学校でこの映画を上映することを禁じたのだ。デイリー・テレグラフ紙がそれに火をつけるような報道をし、シドニー・モーニング・ヘラルド紙などが反発した。

映画『Gayby Baby』は9月から各地で上映中。予想を上回る反響だという
映画『Gayby Baby』は9月から各地で上映中。予想を上回る反響だという

日本とも強いつながりのあるニューウェル監督
日本とも強いつながりのあるニューウェル監督

映画『Gayby Baby』のレイティングはPG(ペアレンタル・ガイダンス)だ。子ども向け映画の『アナと雪の女王』や『レゴムービー』と同じである。ゲイ・カップルの子どもについての映画であること以外に特別な要素はない。それが問題となったのであれば、偏見だと言わざるを得ない。

今回の騒動に関してマーズさんは、「おそらく必要な議論だったのだろう」と冷静に受け止めている。「私たちが5年前に映画を制作し始めたのは、結婚の平等や同性カップルの子どもについての議論があったからです。いまだ結婚の平等は実現されていませんが、私たちの映画が、渦中の子どもたちの声を届けてくれるかもしれないと思っています。その意味では、今回のメディアの注目は良かったのかもしれません」

オーストラリアではここ数年、同性婚の合法化に関する政治議論が活発だ。その中で子どもの問題もよく取り沙汰される。子どもには父親と母親の両方が必要だと主張する人もいるからだ。

そんな主張に反して、昨年発表されたメルボルン大学の研究で、同性カップルの子どもとそのほかの子どもでは統計的に大差がないことが明らかになった。サイモン・クラウチ医師は500人の同性カップルの子どもを対象に調査を行い、健康面や行動面を項目ごとに一般の子どもと比較した。健康と家族関係の良好度では、同性カップルの子どもの数値は全国平均値を上回った。

ニューウェルさんは、「結婚の平等の議論に子どもが巻き込まれるのは、おかしな話」だと言う。「結婚は子どもを産むための前提ではありません。ゲイの家族は何世代にもわたって子どもを育ててきました。(同性婚合法化の)議論と子どもの問題は別です」

ゲイビー・ブームともいわれる時代。家族の形はさまざまだ。政治議論はさておき、まずはゲイビーたちの声に耳を澄ませてみたい。

ニューウェルさんは言う。「もしあなたがゲイの家族を受け入れられないとしても、良い映画ですからぜひ観に来てください。子どもの視点で家族を見つめる良い機会です」

映画『Gayby Baby』はオーストラリア各地で上映中(詳細はこちら:Web: thegaybyproject.com


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: https://twitter.com/HirokoKClayton

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