日本で語られなかった戦争

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第3回:日本で語られなかった戦争

アンジェリーナ・ジョリー監督の米映画『不屈の男 アンブロークン』が、来年2月にようやく日本でも公開されることになった。

2014年末にアメリカで公開されて以来話題の作品だが、反日的であるとの見方から日本公開は危ぶまれていた。主人公ルイ・ザンペリーニは、ベルリン・オリンピックで活躍した実在の人物。第2次世界大戦で日本軍の捕虜となり、残虐な収容所での日々を生き延びたまさに「不屈の男」である。

ようやく日本公開決定とのニュースを10月に聞いて思い出した小説がある。昨年、イギリスの権威あるマン・ブッカー賞を受賞した、オーストラリア人作家リチャード・フラナガンさんの小説『The Narrow Road to the Deep North(奥の細道)』だ。映画『不屈の男』と共通しているのは、本作品も日本軍の捕虜収容所を舞台にしているところである。

捕虜虐待描写は反日なのか?


映画『不屈の男』では日本軍による虐待の様子が描かれており、それを反日だとする動きが日本国内で高まっていた。

しかし、この映画で残忍なワタナベ軍曹役を演じたMIYAVIさんは、朝日新聞(10月23日)の取材に対し次のように語っている。「この作品が『偏った反日映画』だとは、僕は一貫してまったく思っていない。むしろ逆です。(中略)アンジー(ジョリー)は、映画は原作とは切り離して、ルーイ(ザンペリーニ)の人生や強さに焦点を当てたいと言った。(中略)日本のことを悪く言うだけの映画だったら出るつもりはなかった」

小説『The Narrow Road to the Deep North』は、おそらく『不屈の男』以上に多面的かつ公正に描かれた作品のように思う。

本書は、「死の鉄道」とも呼ばれた泰緬鉄道の建設で、日本軍に強制労働を強いられたオーストラリア人捕虜を描いている。主人公である軍医のドリゴ・エバンズの戦前、戦中、戦後を追いながら、生き残りをかけた収容所での日々を軸に、彼が想い続けた女性、戦後の日本、そして彼自身の戦後を描く。

物語は、捕虜を虐げた日本軍人ナカムラや韓国人の監視員チェイ・サンミンの戦後も追う。彼らを単なる虐待者としてではなく、歴史そして軍国主義という文脈の中で捉えることで、物語は多面的で深みのあるものになっている。

東京在住のオーストラリア人歴史家ピーター・ブルースさんは、本書を「感情と冷静を交互に交えながら、戦争のある側面を、説得力をもって伝える優れた戦争小説」と評価する。

「作品が自国中心主義的になったり、一方に偏らないよう著者が努力したことがうかがえます。(公正に描くために)彼は、狡猾で臆病なオーストラリア人捕虜の役を作り出すという賭けにまで出ました」

反対側から見た戦争

同じ戦争でも、勝者か敗者か、加害者か犠牲者か、こちら側かあちら側かによって、その見方が変わってくるというのはよく言われることである。「一般的に、日本人の戦争に対する姿勢は、悲しみ、恥辱、意識的な無知であり、オーストラリア人の姿勢は勝利感、悲痛、独善性です」とブルースさんも、第2次世界大戦に対する日豪の認識の違いを指摘する。「日本では(戦後)、戦争を否定し、そこから(日本を)正当化、合理化しなければならかなかった中である戦争像が作られました。そのために、日本人はそれ以外の戦争の側面を知る機会を与えられなかったのではないでしょうか」

オーストラリアに住んで、初めて知るようになった歴史的事実はないだろうか。例えば、チャンギ捕虜収容所、ココダの戦い、ダーウィン空襲、サンダカンの「死の行進」など。

私たちが日本の学校教育の中で学んだ太平洋戦争のほとんどは、広島と長崎への原爆投下、東京大空襲、沖縄戦だったように思う。本土被害とその悲惨さを学ぶことは必要である。しかしその事だけを戦争教育の全てとするのなら、それは一面的であろう。それは、オーストラリアに来るまで、POW(戦争捕虜)の話をほとんどまともに理解していなかった自分自身を振り返って思うことでもある。

日本ではあまり知られていない日豪の戦争の歴史。それを描いた作品に反日というレッテルを貼って、目をつぶるべきではない。オーストラリアに住んでいればなおさら知る責任があるだろう。

戦後70年の今年も終わりを迎えようとしている。本書を読んで、オーストラリアの視点から歴史を見つめてみてはどうだろう。

“The Narrow Road to the Deep North”
By Richard Flanagan
Vintage, Random House Australia(日本語訳は、2017年に白水社より出版予定)


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: https://twitter.com/HirokoKClayton

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