デジタル化と雑誌の行方

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第6回:デジタル化と雑誌の行方

オーストラリアを代表する女性誌『CLEO』の廃刊が決まった。現在販売中の3月号で最後となる。

今は、雑誌など手に取らなくても、欲しい情報は全てスマートフォンで得られるのかもしれない。しかし、「スマホ」がなかった頃の『CLEO』全盛期を知る方は、今回のニュースに驚かれたのではないだろうか。

なぜ『CLEO』は廃刊となったのか?

同誌は1972年の創刊から、鋭い切り口と型破りな内容で若い女性たちのファッション、美容、恋愛をリードしてきた。「90年代初頭のピーク時には40万部以上売り上げる月もあり、これは1人当たりの女性誌売り上げ数としては世界一でした」と、当時編集に携わっていたリサ・ウィルキンソンさんはハフィントン・ポスト(16年1月20日)に書いている。


出版元のバウワー・メディアは、昨年、男性誌の『Zoo Weekly』も廃刊している。今年1月20日の『CLEO』廃刊発表時には、ティーン向け月刊誌『Dolly』を隔月刊行とし、デジタル版を主とする媒体に刷新することも明らかにした。

同社のアンドレアス・シューCEO代理は今回の発表のなかで、「強固なデジタル戦略が、我々の成功の鍵になる」と述べている。「今後の『Dolly』の投資計画では、デジタルを主とするアプローチをとり、スマートフォンのための動画、ソーシャル・メディア、電子取引分野を強化していきます」

逆に言えば、このようなデジタル化対策が十分でなかったことが、『CLEO』の廃刊につながったとも言えよう。

オンライン・メディアの隆盛

雑誌の廃刊が続き、新聞の販売部数が減り続けるなか、新しい形のメディアが勢いを増している。

前出のハフィントン・ポストは、05年の設立以来急成長するオンライン・メディアだ。オーストラリア版は昨年8月に立ち上げられたばかりだ。今年1月の日本版の立ち上げで話題になったのは、バズフィード。ソーシャル・メディアの拡散力を利用して膨大なトラフィックを集めるバイラル・メディアだ。オーストラリア版は2年前に開設され、国内でもその存在感を高めている。

最近では、1月にメルボルンで行われた全豪オープン・テニスに絡んで、バズフィードの名を耳にされた方もいるのではないだろうか。全豪オープン初日の1月18日、テニスの八百長疑惑に関するニュースが駆け巡った。その裏にあったのが、バズフィードとBBCが共同で行った調査だ。両メディアが入手した極秘資料、さらに独自の賭博活動分析と関係者への取材によって、疑惑は浮上した。

今回のことで興味深いのは、大御所メディアと新興メディアが手を組んだということ。そして新興メディアが、インパクトのある動画やユニークな話題を拡散するだけでなく、独自の取材で社会を斬るというジャーナリズムの役割を担い始めたことだ。

紙媒体はなくなるのか?

そんな力を持ち始めた新興メディアは、新聞や雑誌などの紙媒体をしのいでいくのだろうか。15年デジタル・ニュース・レポートという興味深い報告書がある。イギリスのロイター・インスティテュートが、世界12カ国の電子ニュース閲覧について調査したものだ。報告書で明らかになったのは、ソーシャル・メディアやスマートフォンでニュースを読む人の数の急速な増加、デスクトップ・コンピューターでのインターネット使用の減少、そしてオンライン動画ニュースの著しい増加だ。

このような変化は、「よりパーソナルで、双方向性があり、いつでもどこでも閲覧できるニュースへの移行を反映している」と報告書の著者であるニック・ニューマンさんは言う。「伝統メディアの挑戦は、厳しい経営状態にあるなか、(人々の情報獲得)行動の多様化にいかに対応していけるかということです」

『CLEO』の廃刊で、デジタル化に対応できない紙媒体は消えてしまうという危惧は現実のものとなった。スマートフォン1つあれば、新聞と雑誌のデジタル版が閲覧できる。またオンライン発祥の新しいメディアが、スマートフォンに合わせた形の情報も提供している。そんな時代、雑誌の廃刊は自然な流れとも思われる。

イギリスの新聞インディペンデント紙も、今月で紙の発行をやめ、デジタル版のみにするという。一方でアメリカでは昨年、デジタル本の売り上げが減少し、紙の書籍の販売が持ち直しているという報道があった(ニューヨーク・タイムズ紙、15年9月22日;クォーツ、15年12月19日)。

人々がデジタルから紙に戻るという予想外な動きに驚かされたが、それが継続する傾向なのかは分からない。確かなのは、デジタル化のなかでメディアが多様化してきているということ。そのなかで生き残るものと淘汰されるものが出てくるのだろう。

美容院でファッション雑誌をめくる風景は、もうすぐなくなってしまうのだろうか。そんなことに思いを馳せて少し寂しさを感じるのは、『CLEO』世代だけだろうか。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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