AUSメディア・ウォッチ「養子という家族のかたち」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第18回:「養子という家族のかたち」

インドの駅で兄弟とはぐれ、2日間列車の中に閉じ込められた末にカルカッタ(コルカタ)にたどり着いた5歳の男の子サルー。家から何千キロも離れた大都市の路上で、危険な目に遭いながらも1人で生きていくしかなかった。その後保護されてオーストラリア人夫婦の養子となり、タスマニア島のホバートで成長する。成人したサルーはある日、よみがえった25年前の記憶とグーグル・アースを手がかりにインドで生き別れた家族を探し始める。

上記のあらすじの映画『ライオン~25年目のただいま~(原題:Lion)』は、先月26日のアカデミー賞で6部門にノミネートされた話題作だ(原稿執筆時にはノミネート各部門の受賞結果は未発表)。映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)や『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(2011年)で知られるデーヴ・パテルさんの演技力に加え、実話に基づいた力強いストーリーが観る人の心を打つ作品だ。

オーストラリアでは一般的な養子縁組

サルーの養母役を演じるニコール・キッドマンさんは、初めて同作の台本を読んだ時から、実在する養母のスー・ブライアリーさんに相通じるものを感じていたという(シドニー・モーニング・ヘラルド紙、17年1月14日、15日)。

養子としてタスマニアで育ったサルーは、記憶とグーグル・アースを頼りに生き別れたインドの家族を探す(Photo: Mark Rogers)
養子としてタスマニアで育ったサルーは、記憶とグーグル・アースを頼りに生き別れたインドの家族を探す(Photo: Mark Rogers)

また、キッドマンさん自身も2人の子どもを養子に迎えていることで知られる。「(ブライアリーさんと同様に)私も、いつか養子を迎えるのだというセンセーションを感じていました。そのうち1人は茶色い皮膚の子どもだとも思っていました。それが私の運命だといつも感じていたのです」

映画で扱われている「養子」というテーマ。日本ではほとんど話題にならないが、オーストラリアでは国際養子縁組も珍しくない。オーストラリア健康福祉研究所によると、2015/16年度のオーストラリアの養子縁組278件のうち、29パーセントにあたる82件が海外からの養子だという。

オーストラリアに住む私たちの周囲にも、インドからの養子として育った人や、アジア諸国からの養子を育てるオーストラリア人がいる。

100パーセント、オーストラリア人

そんな中の1人、サム・ヒュートンさんは韓国で生まれ、生後2カ月で養子として迎えられた。クイーンズランド州北部で育ったヒュートンさんは、自身を「100パーセント、オーストラリア人」だと言う。

「親は白人、私はアジア人ですから、養子だということは明らかでした。小さな田舎町で育ちましたが、私をアジア人として見る人はいませんでした。私は自分がアジア人に見えることは知っていますが、自分がアジア人だと感じたことはありません」

養子自身の声を聞くには、フェアファクス・メディアのジャーナリストであるラティカ・バークさんの自伝が興味深い。15年に出版された『フロム・インディア・ウィズ・ラブ(From India with Love)』は、インドからの養子として、ニュー・サウス・ウェールズ州の白人家庭で育ったバークさんの生い立ちについて書かれている。

バークさんもまた、自分はオーストラリア人だという意識を強く持っている。「表面的な違いはあっても、私は自分の中身が周囲の人と何も違わないのを知っています。それだけに、他人から『どこから来たの?』と聞かれることにうんざりしていました」

そんなバークさんもサルーと同様、成人してから自分のルーツを探ることになる。きっかけとなったのは、インドのスラムで育った少年を描いた映画『スラムドッグ$ミリオネア』。映画に触発されてインドを訪れ、自分が生後8カ月まで過ごした孤児院を訪ね、そこで働く修道女たちと触れ合った。

今では「2つのすばらしい祖国を持つことを幸せに思う」と言うバークさん。インドを知った後も、自身を「誇り高きオーストラリア人」と表現する。

養子縁組が持つ可能性

ヒュートンさんは、養子に出されて良かったという。

「もしそのままそこにいたら別のすばらしい人生があったかもしれないなどという幻想は、一切持っていません。むしろ、養子として迎えられて幸運だったと思っています。家族も無いまま孤児院で育つことがなかったことを、感謝しています」

日本ではまだ抵抗があり、話題にのぼることも少ない国際養子縁組というテーマ。オーストラリアで実際のケースを目にすると、日本でももう少し議論されても良いのではと感じずにはいられない。

更にヒュートンさんは、はっきりとこう言う。「私は、育ててくれた父と母が本当の両親ではないなんて思ったことはありません」

実話に基づく映画『ライオン~25年目のただいま~』は、養子縁組の幅広い可能性とそこにあるドラマを垣間見させてくれる。

映画『ライオン~25年目のただいま~(原題:Lion)』
■Web: www.lionmovie.com.au


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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