AUSメディア・ウォッチ「変わるオーストラリアの“食”」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第19回:「変わるオーストラリアの“食”」

「オーストラリアの食べ物は意外とおいしい」という声を旅行者などから聞くようになった。

日本でも、オーストラリアのワインやカフェ文化は広く知られている。シドニーのレストラン「ビルズ(bills)」が日本に出店した際には、ちょっとしたブランチ・ブームも巻き起こった。

オーストラリアの食は、ここ数十年で大きく進化している。元々イギリス式の「ミート・アンド・スリー・ベジ(肉料理と3種の野菜)」で育った世代が、移民文化の影響で、ラクサや飲茶、ファラフェルなどを食べるようになったのだ。

食が多様化し、洗練されていく中で登場したのが、「モダン・オーストラリアン」という料理のスタイル。アジア食材を西洋料理のテクニックで調理するなど、多文化料理をオーストラリア風に融合させたものだ。

このような料理を出すレストランが軒を連ねるようになって久しい。そんな中、オーストラリアの「食」に、また新たな動きが出てきているような気配もある。

農場の食卓

SBSテレビで数年にわたって放送されている『グルメ・ファーマー(Gourmet Farmer)』という番組がある。著名なレストラン評論家だったマシュー・エバンズさんが、タスマニア島で農家に転身する様子を描いたドキュメンタリー番組だ。そのシーズン4が、年内に放送予定となっている。

シドニーを拠点に高級レストランを食べ歩いてきたエバンズさんは、「これが本当に最高の食事なのだろうか、という疑問を持つようになった」と語る。そこで、食の源に限りなく近いところで、自分が最高のものを作れるか試してみたかったという。

タスマニアの州都ホバートから車で45分の所にあるエバンズさんの農場を訪ねてみた。「ファット・ピッグ・ファーム(Fat Pig Farm)」という名の通り、おいしい脂をつけた黒豚が、のびのびとした風景のなかを歩き回っている。無農薬野菜の畑が広がり、鶏が駆け回る。

そこで育てられた野菜や肉は、昨年9月に同じ敷地内にオープンした金曜日だけのレストラン、または夏場に催されるピクニックで食される。

農場のピクニック・ランチで頂くのは、手作りのハム、小タマネギのピクルス、そのままのスノー・ピー、グリルしただけのズッキーニ、インゲン豆やビートルートのサラダなど。厳しい評論家の行き着いた料理が、こんなにもシンプルなのかと思うものばかり。どれも食材の味が際立ち、飾らないおいしさがある。

古い食文化に学ぶ

3月に各所で出版記念イベントを行なったデイビース恵美子さん。日本人の母の味で育ったデイビースさんの大好物はタラコだという
3月に各所で出版記念イベントを行なったデイビース恵美子さん。日本人の母の味で育ったデイビースさんの大好物はタラコだという

3月にオーストラリアで、『アクアコッタ(Acquacotta)』という本が出版された。イタリア・トスカーナ地方沿岸部に位置する、マレンマというほとんど知られていない地域の郷土料理を紹介した1冊だ。

著者のデイビース恵美子さんは、日豪の両親の元に生まれ、中国で育ち、アメリカに学び、現在はイタリアに在住するフード・ライターだ。世界各国の食に触れてきたデイビースさんが大切にするのもまた食材だ。

「イタリアでは、スーパーマーケットでさえ地元の果物や野菜を取りそろえたコーナーがあるほど、その土地の季節のものを頂くのが当たり前です。それはトレンドでさえありません。生き方そのものなのです。新鮮な季節の食材であれば、手をかける必要はなく、ソースも何も要らないのです。ですからお料理はシンプルです。でも、とても美味しいのです」

オーストラリアでも地産地消の考え方が広がり、季節の野菜や有機野菜を好む自然志向が強まっている。「昔ながらのイタリアの食文化から学べるところは多い」とデイビースさんは言う。

削ぎ落とす料理

エバンズさんは生産者に転じてから、「なぜその食材が今、食卓の上に載っているのか、ということを考えるようになった」と言う。デイビースさんもまた、「イタリアでは、お皿の上の食材は理由があってそこにある」と話す。

2人に共通するのは、あくまで食材が中心であるということ。それは、オーストラリアの新しい食の傾向を表しているようにも思える。

生産者から新鮮な野菜や果物を直接買うことができるファーマーズ・マーケットがあちこちで開かれるようになり、人びとが有機野菜や地元の生産物を選んで買うようになった。世界的なトレンドであるとはいえ、豊かな自然に恵まれたオーストラリアではなおさらなのではないだろうか。

デイビースさんは、料理では「削ぎ落とす」ことが大切だという。

「ココ・シャネルの有名な言葉に、『家を出る前に鏡を見て、アクセサリーを1つ外しなさい』というのがあります。料理でも同じことが言えるのです」

余計なものを削ぎ落として核にある食材を追求した料理が、オーストラリアで新しい「食」の流れを作っていくのだろうか。

■テレビ番組『グルメ・ファーマー・シーズン4(Gourmet Farmer Season 4)』は年内にSBSテレビで放送予定。
■書籍『アクアコッタ(Acquacotta)』(Hardie Grant Books、2017)は、オーストラリア国内の書店で発売中。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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