AUSメディア・ウォッチ「人種差別を考える」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第30回:人種差別を考える

年明け早々、お笑いコンビ・ダウンタウンの浜ちゃん(浜田雅功)が顔を黒く塗ってテレビに出演したことが各国で取り上げられた。SNSで拡散したのはもちろんのこと、米ニューヨーク・タイムズ紙から英BBC、オーストラリアのSBSまでもが報道した。

なぜ黒塗りがいけなかったのか

「浜田が着替えたら(俳優の)エディ・マーフィーになった」という設定で顔を黒く塗ったという。この「ブラックフェイス」と呼ばれるメイクがなぜそこまで問題になったのか。

そこには特にアメリカで、ブラックフェイスがアフリカ系アメリカ人に対する差別の象徴になってきたという歴史がある。

日本在住のアフリカ系アメリカ人で作家のバイエ・マクニールさんは、ハフィントン・ポスト日本版(2018年1月3日)の取材にこう答えている。「日本のテレビ・コメディーや音楽でブラックフェイスを見るたび、見下されたような、馬鹿にされたような、そして表面だけを見られて、人間性を否定されているような気分になります」

番組を制作した日本テレビは、「差別する意図は一切ありません」とコメント。恐らくその通りなのだろうとは思う。

日本のバラエティー番組は、これまで内輪のノリで日本独自のお笑いの世界を作ってきた。差別という認識なくやってきたことが、「外の目」に触れた時に差別になることがある。SNSで外の目にさらされることが多くなった今、「知らなかった」では済まされなくなったのだ。

日本には、このような「イグノランス(無知)」からくる差別が多いように思う。

メディアをにぎわす人種問題

2016年ブッカー賞を受賞し話題となった小説『ザ・セルアウト』。アメリカの黒人社会と差別を独特なユーモアで描く、人種問題の根深さを理解する上で興味深い作品
2016年ブッカー賞を受賞し話題となった小説『ザ・セルアウト』。アメリカの黒人社会と差別を独特なユーモアで描く、人種問題の根深さを理解する上で興味深い作品

浜ちゃんのブラックフェイスが問題となった1月は、メディアで人種差別に関する話題が多かった。

アパレル大手のH&Mは、「ジャングルで一番クールな猿(COOLEST MONKEY IN THE JUNGLE)」と書かれたパーカーのモデルに黒人の男の子を起用して批判を受けた。アフリカ系やアジア系の人を猿と表現することは差別的とされているからだ。

アメリカではドナルド・トランプ大統領が、なぜハイチやアフリカなどの「肥だめ(shithole)のような国」からの移民を受け入れなければならないのかと発言し、世界中を唖然とさせた。英語の「シットホール」はかなり強い罵倒の言葉で、特定の国々をそう呼んだことで大統領の差別意識があらわになった。

時を同じくしてオーストラリアでも、政治家の移民に関する発言が問題となった。

口火を切ったのは、アフリカ系「ギャング」による暴行の増加に言及したマルコム・ターンブル首相。それに追い討ちを掛けるようにピーター・ダットン内相が、「(メルボルンの)人びとは(ギャングが)怖くて夜レストランに出掛けることもできない」と発言した。

ところが、ビクトリア州警察のグレアム・アシュトン長官はそれを速やかに否定。「食事に出掛けるのが安全ではないなんて、一体どのくらい長い間、外食をしていないのですか」と切り返した。

ビクトリア州では、16年6月から17年6月までの間にオーストラリア生まれの若者が犯した重い暴行事件は1,462件。一方、問題とされたスーダン系移民による事件は45件だった(ニューヨーク・タイムズ紙、電子版:同年1月4日)。

エイジ紙(電子版:同年1月13日)のピーター・マーティン氏は、「ギャング危機」は政治家の手を借りて作り出されたものだと批判している。「ギャングというのは大抵、ギャングだと言って騒がれることで作られるものだ」

街の中で特定の人種が急増すると、その変化に対する恐怖から治安が悪くなっているように感じられることがある。過去にもアジア系やイスラム系のギャングについて同じようなことが言われてきた。

特定の人種に起因する治安の悪化が統計などによって証明されない限り、それは偏見以外の何ものでもない。

知らないことの罪

どこの国にも、さまざまな形の差別がある。そしてそれは、留学や仕事で、また日系移民・永住者としてオーストラリアに住む私たちにとっても身近な話だ。

日系人同士で人種問題が話題に上ると、差別される側の話が多い。オーストラリアに住む日系人は、「ギャング」と称されたアフリカ系移民と同じ、「外から来た者」の立場にあるからだ。

しかし逆に、オーストラリアに住む日本人が他の人種の人びとを差別することもある。例えば、「オーストラリア=白人の国」という思い込みからくる、白人以外のオーストラリア人に対する差別。オーストラリアが多文化国家であるという認識に欠けているだけで、悪意のないものかもしれない。それでも浜ちゃんのブラックフェイスと同様、「知らなかった」で許されることではない。

日本のお笑い界という内輪の世界でさえ意識を高めることが求められている。そんな日本の外に住んでいる私たちは、なおさらアンテナを張っていたいと思う。知らないことで人を傷つけることもあるから。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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