AUSメディア・ウォッチ「試される新政権の環境政策」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第37回:試される新政権の環境政策

「プラスチック・ラップはサステイナブルじゃないから使わないで」

小学校低学年の次男にそう言われた。それ以来、サンドイッチはそのままお弁当箱に入れている。一切れのケーキやおにぎり用の海苔など、ラップに包みたくなる物も小さな容器に入れる。

オーストラリアの小学校では環境教育が盛んだ。小学生たちが地球温暖化について調べ、再生可能エネルギーをテーマに討論をし、絶滅危惧種を救うためのファンドレイジングをしたりしている。

そんな教育を受けてきた長男が、オーストラリアの政界が首相交代劇で揺れた8月末、エネルギー政策についてのニュースを聞きながらこう言った。

「学校では環境を守ることを勉強して、大人になって政治家になるとそれを忘れちゃうの?」

モリソン氏と石炭

8月24日、自由党内の泥沼の権力闘争の末、スコット・モリソン新首相が選出された。

モリソン氏といえば、財務大臣だった昨年、下院に石炭の塊を持ち込んで話題となった人だ。

「これが石炭です。怖がらないでください」

皮肉を込めてこう述べ、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを推し進める勢力を制した。国民に低価格で安定したエネルギーを提供するためには石炭が重要だと説いたのだ。

石炭による火力発電は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量が多い。パリ協定などで、世界が温室効果ガスの削減に向けて動いていることは誰もが知るところだ。

そんな中で誕生した保守派の新首相。首相のチーフ・オブ・スタッフには、石炭産業などを代表する鉱山業界団体、ミネラル・カウンシル・オブ・オーストラリアの元副CEOジョン・クンケル氏が就任した。

首相となったモリソン氏が、重要課題としてまず挙げたのは干ばつ問題だ。就任して3日後にはクイーンズランド州西部のキルピーを訪れ、干ばつ被害を受けている農家を視察した。

気候変動とも関連があるとされる干ばつ。被害が深刻なキルピーで気候変動について記者から質問を受けたモリソン首相は、直接的なコメントを避けてこう答えた。「私の関心は人びとの電力料金を下げることにあります。今の時点で、(気候変動の)議論に関わることにはあまり興味がありません」(ABC、2018年8月27日)

高まる環境意識

モリソン首相が気候変動に関してあいまいな姿勢を示す一方で、オーストラリアの国民の間では環境意識が高まっている。

ローウィー研究所の17年の調査によると、オーストラリアの成人の54パーセントが、「地球温暖化は深刻な緊急課題で、大きなコストを伴ってでも対策を取るべき」と回答している。この54パーセントという数字は、12年と比較して18ポイントも上昇しており、国民の環境に対する意識が大きく変化してきていることを示している。

スーパーにエコ・バッグを持参するのは当たり前。人びとの環境意識は高まっている
スーパーにエコ・バッグを持参するのは当たり前。人びとの環境意識は高まっている

このような環境に対する意識の高まりは、昨年と今年、ABCで放送されたゴミと環境汚染に関するドキュメンタリー『ウォー・オン・ウェイスト(War on Waste)』シリーズに大きな反響があったことにも表れている。

また、スーパーマーケット大手2社のコールズとウールワースが、環境に配慮して無料レジ袋を全面廃止したことも記憶に新しい。

この件で興味深かったのは消費者の反応だ。無料レジ袋が廃止されると、一部の消費者から強い反対の声が上がり、コールズはそれに対応するためレジ袋の無料配布を無期限に延長した。そこで沸き起こったのが、多くの消費者からの落胆の声。SNSなどで、コールズの対応に抵抗する不買運動にまで発展した。それに反応したコールズは8月末から再び袋を有料化。社会の意識が既に変わってきていることを如実に示した。

新政権と国民のズレ

パリ協定に基づき、30年までに温室効果ガスの排出量を05年の水準から26~28パーセント削減することを目標としているオーストラリア。ところが新政権は、高騰するエネルギー料金が問題となっていることを背景に、石炭に依存し続ける姿勢を示している。

コストが掛かるとされる再生可能エネルギーだが、だからといって石炭のような化石燃料に頼り続けることが、本当に将来電気料金を下げることにつながるのだろうか。

グリーン・エネルギー・マーケッツの最新のインデックスによると、再生可能エネルギーの供給が大幅に増えていくことで、エネルギー卸価格は今後4年間でほぼ半分に下落するという(ガーディアン紙、同年8月30日)。

環境意識が高まる社会で、特に温暖化の影響を今後受けていく若い人たちが石炭中心のエネルギー政策を望んでいるとは思えない。ローウィー研究所の調査でも、国民の半分以上が大きなコストを伴ってでも温暖化対策は必要だと答えている。

新政権と国民の間の気になるズレ。それをどう解消していくのか、新政権のこれからが試されている。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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