【現代アート】アートとデザインの違いって何ですか?

現代アート塾

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第16回

“アートとデザインの違いって何ですか?”

マティス「茄子のある静物」1911
マティス「茄子のある静物」1911

マティスがピカソと袂(たもと)を分かつ時期に描いた「茄子(なす)のある静物」という絵があります。この絵でマティスは初めてアラベスクの影響を受け、全方向に伸びていく空間を模索しました。そのため画布を木枠に張らずに、画布だけを壁に貼り付けてこの絵を制作。彼は、絵というものは室内の装飾(デザイン)であっても良い、という考えを持っていたのです。

マティスは自分の絵画が「あらゆる労働者たちに、心が平穏になるような、または疲れた体をくつろがせるようなアームチェアのように、リラックスさせるもの」でありたいと書いています。

アートは作者の主観に基づき、観る者の使用を前提としないもの。一方、デザインはクライアントや観る者(使用者)の意図に奉仕し、特定の効果を高めるものである、という定義をされることがありますが、マティスには「観る人の使用に対して奉仕するもの」という意識がありました。これは「デザイン」と言っても差し支えないのではないでしょうか?

アートの定義にはいろいろありますが、『芸術作品の起源』を書いたハイデッガーによりますと、「芸術作品とは作家の『手』を経てできたもの」という定義があります。更にこの中で「作家の手には歴史がある」とまで彼は言います。では手を経ない作品、例えば写真など、制作を他人に任せるオーダー・アートはアートではないのでしょうか。

グラフィック・デザイナーはどうでしょう?彼らは自分の手を使いポスターや雑誌の誌面を飾ってきました。天井桟敷のポスターのデザインなどで有名であった横尾忠則は、1980年にグラフィック・デザイナーを返上して、アーティスト宣言をしました。その後、直接美術館で展示される絵画作品を制作し始めたのです。

デザインにはクライアントがいます。ですから作者はクライアントの意向に従い、個人の主観が作品の中心になることを避けようとします。そして依頼されたデザインは、特別な契約がある場合以外はコピーライトを含めて、全てクライアントの所有物になります。一方、絵画はアートとして、作者の主観、つまり作者の作為、思考、確立したスタイルといったものが表現の中心になり、コピーライトは常に作家に属します。

一般的にアートとは美術館で鑑賞できるもの、という考えがあります。つまり、社会制度としての美術館や、美術館学芸員たちが認めたものがアートであるという考えです。特に、絵や彫刻などに限らずさまざまなメディアを使う現代美術作品は、その主たるものです。

近現代美術の聖地とも言えるニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)では製品としてデザインされた物の収集も活発です。ソニーのウォークマンや、アップルの初期のパソコンなども収集されており、これはつまり、かつて私たちの日用品であったものが、それ以降アートとして再認識される過程があるということです。

美術史上、デザインとアートとの違いに関し、数々の議論が行われてきました。美の定義や美術館という制度、オリジナリティーといったお決まりの論点以外にも、科学がいかにアートに関わってくるのか、という興味深い論点もありました。

19世紀、印象派が絵の具の色環以外にも光の色環を使い、原色の並列によって色相を出し始めたのは、当時の光学の成果があったからだといいます。後のカメラの原型になった「カメラ・オブ・スキュラ」という、レンズを通して対象をスクリーンに映し出す装置は、フェルメールを始めとした17世紀のオランダの画家たちも使っていました。現代、そのイメージが画家の筆(手)を経ず、機械によって定着したことで写真となったのです。

写真は報道写真を始めとして、事実を映し出すもので、機械によって作られたものだからアートではない、と19世紀から論議されていました。実際に、写真がアートとして認められ始めたのはついこの20~30年前です。もし写真が、グラフィック・デザインや宣伝、報道に使われる限りであれば、それはデザインや日常経済活動の領域内にとどまっていたでしょう。それが美術館などで展示されるようになり、写真家自身が認めたオリジナル・プリントや芸術写真として、最初からアートとして制作されたものが出てきました。現在フォト・ショップなどで写真イメージ自体を、作家の手を借り加工できるようになっていますが、それだけでなく写真はそれ自体でアートとして認められ、著名な作家の作品は大変な高額で取り引きされたりもしています。反対にかつて貴族たちの独占品であったアート作品も、複製を通じて日常の中に組み込まれています。

さまざまなデザインの日用品はたくさんの要素を含んでいます。生活を豊かにするデザイン、これが創意の基本ではないでしょうか?

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)◎メルボルン大学美術史/哲学学部博士課程修了、モナーシュ大学 アート&デザイン学部博士課程所属。現在は、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたアーティストとして活躍するほか、ディーキン・RMIT大学(藝術の哲学)でも講師を務める。Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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