【現代アート】美術館に飾っていなくてもアートですか?

現代アート塾

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第17回

“美術館に飾っていなくてもアートですか?”

Daniel Buren「Le vent souffle où il veut」(2009)(The wind blows where it pleases)
Daniel Buren「Le vent souffle où il veut」(2009)(The wind blows where it pleases)

ダニエル・ビュレンというフランスのコンセプチュアル・アーティストがいます。彼はストライプを使う作家として有名ですが、ストライプというごくありきたりなパターンを用いて、美術館や画廊という空間の内外で「美術という制度」をさまざまな角度から掘り起こし、矛盾と美術市場にはびこっていた盲点を突きました。

彼は1982年、ラフォーレ原宿で行われた日本国際交流基金主催の、「アート・トゥデイ」と銘打ったパフォーマンス・アート・フォーラムに招待されました。その頃の美術界は、まさに「美術館という空間から飛び出して、アートに何ができるか」を問われていた時期。そのフォーラムにはブルース・マクリーンやヨーゼフ・ボイスも呼ばれていました。ボイスは健康状態が思わしくなく、残念ながらこの時はパフォーマンスを披露することはできませんでした(回復した彼は、翌年来日しました)。このイベントには、美術館からはみ出したそうそうたるアーティストが東京に集結していました。

ビュレンの初期の作品には、子ども用のヨットの帆を使った作品があります。ドイツの公園の池で子どもたちが小さなヨットに乗って遊んでいて、その帆にはビュレンのさまざまな色を使ったストライプが施してあり、カラフルな楽しい雰囲気を醸し出しています。彼は遊び終わった後のヨットの帆を集めて、美術館の壁に展示しました。来館者は壁に張られたヨットの帆を、ビュレンの美術作品として鑑賞します。これは、日用品でも美術館という領域内に飾ることによって美術作品に早変わりする、ということを気付かせるプロジェクトでした。

その他にも、サイト・スペシフィック・アートというコンセプトが70年前後に出てきました。特定の場所を決めて、現地で作品を作り、その場に設置するというものです。その意味でウォルター・デ・マリアを初めとするランド・アートや、アンディ・ゴールズワージーらのエンバイロンメンタル・アートなど、環境そのものを作品として見立てるコンセプトと重なります。

その最初のプロジェクトとなったのが70年の、ロバート・スミッソンによる460メートルにも及ぶ「スパイラル・ジェティ」というプロジェクトでした。ユタ州のグレート・ソルト・レイクのほとりで制作されたもので、湖に伸びる巨大な渦巻状の岩の桟橋です。この作品はサイト・スペシフィック・アートを美術界に広める重要なものとなりました。今でもその野外彫刻を観ることはできますが、現在はほとんど水面下に沈んでいます。

スミッソンは美術という制度の外に出て自然やランドスケープに溶け込んだアートを作ろうと画策しましたが、美術館や画廊という制度に取り込まれ、結局は美術という文脈で語られるものとなってしまいました。

前にも「梱包アート」として触れたラッピング・アーティストのクリストも、サイト・スペシフィック・アートに属するアーティストですが、その巨大なプロジェクトの資金は、全て彼のドローイング(描画された作品)や小さなモデルを画廊を通じて売ることで賄っています。

グラフィティー・アーティストであるキース・ヘリングやバンクシーはどうでしょうか?彼らは文字通り美術館やギャラリーの空間から飛び出して、街の一角のキャンバス足り得る平面を見つけては作品を作り続けました。しかし彼らの経済的成功も、画廊主たちが作品として売り出さない限り達成できないものでした。

美術館なしでアートの活動を画策したものは、実はもう少し時代をさかのぼります。47年にはアンドレ・マルローの「Museum without Walls」という空想美術館構想がありました。そこからも分かるように、美術館や美術評論家が美術作品というものを規定してしまう、そのしがらみから自由になろうというアーティストの願いは深いのです。戦中戦後のデ・ステイルに続くバウハウスのアート・デザイン運動もその一環と捉えて良いと思います。「アートは将来デザインや建築に吸収される」と言ってのけたのも彼らでした。

最近日本でも「村おこし、町おこし」と銘打って地方創生の芸術祭を開催しているのをよく見ます。成功した例に、越後妻有(えちごつまり)(新潟県・十日町市)で行われている「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」といったものがあります。また、美術館外の活動では必ずしもありませんが、最近では「シドニー・ビエンナーレ」の次期ディレクターに日本人の片岡真実氏が選ばれました。何か新しい試みがあることを期待しましょう。

今までアートは特別なものと見なされてきましたが、アートへの理解が深まるにつれ、社会におけるアートの重要性が認識され、美術館や美術という制度からはみ出してあらゆる分野にアーティストが活躍する場面が現れることを願って止みません。

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)
◎メルボルン大学哲学/美術史(2002)並びにモナーシュ大学 アート&デザイン(2016)でPhDを収得。現在は、アーティストとして活躍するほか、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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