【現代アート】デビッド・ホックニーってどんな芸術家ですか?

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関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第17回 “デビッド・ホックニーってどんな芸術家ですか”

David Hockney inside the world-premiere exhibition David Hockney: Current at the National Gallery of Victoria, Melbourne (Photo: Wayne Taylor)
David Hockney inside the world-premiere exhibition David Hockney: Current at the National Gallery of Victoria, Melbourne (Photo: Wayne Taylor)

デビッド・ホックニーとは

デビッド・ホックニーは、1937年イギリス生まれの画家です。ロンドンのゴールドスミス・カレッジで絵画を学んでいたころからアートの世界で一躍脚光を浴び、ロサンゼルスでプール付きの邸宅を幾つか構えるほどに商業的にも成功しました。いわば「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」の走りと言っていい作家になります。

ホックニーの代表的な作品は、1960年から70年代の一連のプールを題材にしたものや、友人・親戚といった身近な人を描いた肖像画などで、ポップで平面的なハード・エッジの作品群は多くの人びとに衝撃を与えました。

私自身も、画学生のころはホックニーの無駄のないスマートな画面に憧れたものです。特に、スイミング・プールの簡潔でリズミックな描写には思わず何度も唸らされました。

ホックニーの考える表現

ホックニーはヨーロッパの伝統絵画法を研究するだけでなく、中国の絵巻物も研究しています。ヨーロッパの伝統的透視図法は定点から画面を眺めることを前提にしていますが、絵巻物は左から右へ視点を移動していくことを前提としています。ですから、自ずと西洋の透視図法とは異なります。

実は中国では透視図法は早くから知られており、その知識はあったのですが普及しませんでした。日本でも江戸時代、眼鏡絵などで透視図法は知られていましたが、葛飾北斎などは一点透視図法ではなく多点透視図法を使っています。

ホックニーは19世紀のサロン絵画を批判的に参照します。例えば、ウィリアム・アドルフ・ブークローの有名な『海岸の裸婦』を分析して、まるで芝居絵だと表現しています。つまり前景と後景が分離していて舞台の書き割りのようになっており、取って付けたようにいびつになっていると言うのです。描写は細に入りリアルなのですが、まるでフォト・ショップでも使ったかのように継ぎ接ぎになっています。

一方で、ホックニーはセザンヌの『水浴図』の方が、よりリアルな表現だと評価しています。なぜならば、人間は2つの目があり、バイノキュラー(双眼鏡的)ビジョンが現実だからというのが理由です。

ですから、彼によると2つの視点または多視点から見た対象の方が現実に近いと言うのです。写真に慣れた私たちの目には少し奇異ですが、前景も後景も一緒くたに全体を同時に描き進めていくセザンヌの人物群のほうがリアルだとホックニーは判断しています。

ホックニーは、『海岸の裸婦』に見られる透視図法を“optical projections”、『水浴図』の透視図法を“optical look”と呼び区別しています。後者をよりリアルなものと考えるホックニーは、前者の“optical projections”を「写真、映画、ビデオなどのレンズを通した映像は機械的であり人が見る現実を反映していない。それどころかレンズの強権に我々が晒されている」とまで言います。では、このレンズによる呪縛から自由になることはできるのでしょうか。

私たちはあまりにカメラのレンズを通した光景に慣れ親しんでいるので、多視点の画面構成になじみがあまりありません。私たちは光景を2つの目で、そして理解というフィルターを通して見ているのです。単純に物を見るといっても、「純粋知覚」などというものはなく、常にあるコンセプトが関わっています。記憶も含めた多次元視覚が我々日常の視覚である、と言えるかもしれません。

ホックニーの制作スタイル

ホックニーのiPadのアニメーション画像を見ていますと、セザンヌのように全体を同時に描き進めていきます。彼はスタイラス・ペンを使ってiPadで作品を制作しますが、筆と絵の具に代わって、この方法による作品制作は経済的で早く作業が進むと言っています。

現代アートは「シミュラークラ」、つまりオリジナル無き複製の時代だと言われています。精工な複製画と実作のキャンバスとの区別が難しいということです。3月中旬までビクトリア国立美術館で開催されていた「デビッド・ホックニー展」では、複製とオリジナルのパネルが意図的に混在されています。オリジナルの絵画を鑑賞しに来た観客をあざ笑っているかのようでした。

最後にホックニーは、同展の開催にあたり「iPadという利器を得て、我々はやっと写真を結果としてではなく出発点として見る・使う時代に入った」と語っています。

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)
◎メルボルン大学哲学/美術史(2002)並びにモナーシュ大学 アート&デザイン(2016)でPhDを収得。現在は、アーティストとして活躍するほか、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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