【現代アート】“インスタレーションとは何ですか?”

関心はあるものの、実は全く理解できない! いったいどこから勉強して良いのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。易しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第28回 “インスタレーションとは何ですか?”

David Thomas,
David Thomas, “Colouring-Impermanence”, Design-Hub RMIT, 2017

ある美術展のオープニング・パーティーでのことでした。オーストラリア人の若い作家の1人に「なぜインスタレーションという展示法を使うのか」と質問をしたことがあります。その作家は少し考えてこう答えました。

「大学で教えてくれたから」

その時、結構正直な答えだなあと思いました。なぜかというと、インスタレーションは現代画廊では当たり前、かえって平面作品だけを展示したい、と言った途端に現代画廊主たちから保守的なアーティストと受け取られる可能性があることを覚悟しなければならないからです。

「インスタレーション(Installation)」とは、美術家や画廊の室内空間にアート作品を「設置(インストール)」することを言います。作品を壁に掛けるのではなく、設置するというのは床や天井を含めた室内空間全部を展示空間として使うことを意味します。

インスタレーションとひと言に言っても、その方法は実に多岐にわたります。壁を使う以外に、画廊空間の床、強いては画廊空間全体を使うことも1つの方法となります。

つまり、絵画・彫刻といったアートにおけるジャンルに捉われず、伝統的アートの領域を凌駕(りょうが)したものという姿勢を見せることこそが、インスタレーションにおいて重要なことと言えるかもしれません。

次に、テレビやモニターを使うこと、アーティストが自身の体を使うこともインスタレーションになります。作品にスピーカーやヘッドフォンが付いたもの、更に路上や建物そのものに対して何らか作為を付加するものもそうです。

例えば、最近流行りの、建物の形状をコンピュータに記憶(マッピング)させて、そこに映像を投影する「プロジェクション・マッピング」もインスタレーションの1つの在り方です。

それからスペンサー・チュニックのように、大人数の裸の人びとを一時的に招集し、一定のルールでマスとして、あるランドスケープに配置し撮影をするものも実はインスタレーションに当たります。

しかし、たとえキャンバスを使っていてもキャンバス自体を物質として扱い、絵画空間といった描かれた空間といったものではなく、鏡面状になった画面に映る空間を作品の一部にするといったアプローチもあります。これには、さまざまなバリエーションがありますが、ロイヤル・メルボルン工科大学(RMIT)を最近退官した教授でデイビット・トーマスはこの手のインスタレーション・アーティストになります。

インスタレーションの創始者は誰かという議論がありますが、これには諸説あります。まず、有力な説としては便器を絵画の代わりに展示したマルセル・デュシャンが挙げられます。ダダイストのグループのヨセフ・ボイス、ナム・ジュン・パイク、ベッドを平面にくっつけたロバート・ラウシェンバーグも創始者に挙げられ、ミニマルアート、シェイプトキャンバス、アラン・カプローのハプニングといったパフォーマンスまで含めると、インスタレーションの出自はいろいろとあります。しかし、一般的にビデオが普及し出した1960年代を初めとする説が、現在は通説になっているようです。

日本にも60年代の具体グループの活動、ハイレッド・センター、以前にも紹介した篠原有司男(17年12月号参照)や荒川修作を含む「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」も初期インスタレーションに関わるものです。それから関根伸夫・李禹煥を含む「もの派」はハプニングやサイト・スペシフィックを昇華したインスタレーションとして評価されるべきものと考えます。

意外なことに、室内をそのまま作品としたのがピエト・モンドリアンです。彼は、早くも1920年代からアトリエ(自室)全体を作品空間の延長として、カラー・プレートでデコレーションしていました。彼自身が告白しているのですが、アトリエを移る時、まず最初にすることは壁を真っ白に塗ること、それから赤・青・黃・白・グレーの長方形のカラー・プレートを配置していくというのです。このカラー・プレートの配置は製作中の作品によって変化します。彼はまさに作品と室内を一体化したものと考えたのでした。コンセプトとしてはインスタレーション・アーティストと言っても良いかもしれません。

インスタレーションと「サイト・スペシフィック・アート」はよく混同されます。サイト・スペシフィック・アートとは、室内にこだわらずその土地の形状・歴史・その他の特徴に従ってその場だけで成立する作品、あるいはその性質や方法を指します。

一方インスタレーションは四角いキューブという画廊空間で展示されることが多く、移動(再設置)可能な作品が多いことが特徴です。アート・フェスティバルなどの場合はその差は微妙で、アート・フェスティバル自体が一時的なため、サイト・スペシフィックなその場限りのアートもインスタレーションと呼ばれているのが現状です。


登崎榮一(Ph.Ds)
メルボルン大学哲学/美術史並びにモナーシュ大学 アート&デザインでPhDを取得。現在は、アーティストとして活躍するほか、ディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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