【新連載】誰でも分かる現代アート塾

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第1回

“大きければ何でもアートですか?”

オルデンバーグという作家がいます。洗濯バサミの巨大なモニュメントを作ってしまいました。冗談が本気になるってこういうことなのかと思います。あまりに明らさまで馬鹿馬鹿しいものが現実化(truism)すると、頭が真っ白になるような空虚な感覚を持つものです。この手法はまた、バーバラ・クルーガーらの「I shop therefore I am」といった巨大な文字列に使われています。なんでこれがアートなのかと思いますが、1950年台ポップ・アートという美術史上の文脈の延長でアートとして認められています。


(左上より時計回りに)Clothespin、Boy、Guggenheim Museum Bilbao、Blue Pole

もともと野外彫刻というのはある程度のスケールがないと空間に映えません。特に都市部の高層ビルの谷間には、巨大彫刻の存在感がふさわしい。しかし、“アート”なのですから、当然大きいだけではだめで、何らかの空間創出や、ドキッとするくらいのインパクトある創意がなければなりません。ところが、創意はあっても大きさが作品撤去の理由になったという例があります。

81年に米ミニマリズムの雄リチャード・セラの37メートルの巨大な鉄の壁の作品が、これぞアメリカン・アートとばかりに重機を使って設置されました。高層オフィス・ビルの前に置かれていましたが、そのビルで働く人々が、気持ちが落ち込む、通行の邪魔になるという理由で撤去を要求し、受理されました。景観に寄与するべき作品が大きさ故に否定された例です。

ちなみにオーストラリアでも、ロン・ロバートソン・スワンの大型の野外彫刻(Vault1978)は、最初に置かれていた場所で、威圧感からか“黄色い悪魔”と後に呼ばれるようになりました。その彫刻は2度撤去された挙句に、現在のメルボルンACCA美術館の前に移転されています。もっと最近では、巨大な本物そっくりな彫刻で有名なロン・ミュニークもオージーです。

室内、つまり美術館内などで展示される作品も年々巨大化してきています。美術館内の巨大な作品で有名なものに、ピカソの「ゲルニカ」があります。この巨大な横8メートルの作品はピカソの故郷ゲルニカに対するフランコ政権の爆撃に憤って描かれたものです。ジャクソン・ポロックの横5メートルの抽象絵画作品「ブルー・ポール」は、キャンベラの国立美術館で73年に購入されました。こんな絵の具を垂らしたような作品に1.3億ドルも出すのかと、オージーはかんかん。しかし「ブルー・ポール」は、現在市場価格が上がり、誰も文句を言う人はいなくなりました。

では、いったいなぜこのような巨大な作品群が出現したのでしょうか?よく言われるのが、戦後アメリカ美術の世界化(CIAも関わっていたと言われますが)です。グローバリゼーションは美術界で既に起こっていたのですね。アメリカ美術の世界化という戦略に乗って、米50州の州都、さらに世界各大都市に美術館の建設ラッシュが起こりました。その巨大な空間にマッチした巨大な作品の制作依頼が美術家たちに舞い込みます。美術館内の巨大なオープン・スペースに競い合える作品は、従来の額に入った油絵といったものでは力不足です。日本でも収蔵品は少ないのにもかかわらず、各都市に巨大な美術館ができていますね。

作品が大きくなったからその入れ物が大きくなったのではなく、その反対であるというのが私の見解です。巨大な箱物がどんどん出来ていく状況で、作品が巨大化する傾向をストップさせることはできません。どうせ収蔵品がないんだから、美術館自体を彫刻化してしまえという傾向も出てきました。フランク・ゲーリーのバオバブ・グッゲンハイム美術館はその顕著な例です。これは究極の巨大彫刻ということができるかもしれませんね。

今月のピック・アップ作品

花・クラインの壷(Bimanual Coordination Drawing ) Dr Eiichi Tosaki


<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)◎メルボルン大学ファイン・アーツ/哲学学部博士課程修了、モナーシュ大学アート & デザイン学部博士課程所属。現在は、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたアーティストとして活躍するほか、ディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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