【現代アート塾】テレビを集めて積み上げたらアートですか?

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第4回

“テレビを集めて積み上げたらアートですか?”


プラスティコロジー/パトリシア・プチニーニ

最近は壁掛け型フラット・テレビに変わり、積み重ねることは一般的でなくなりましたが、確かに美術館ではいまだに箱型テレビを積み重ねた作品が展示されていることがありますね。

豪州のアーティスト、パトリシア・プチニーニは、1998年に東京でプラスティコロジー(Plasticology)という57のテレビを重ねたインスタレーションを行いました。そもそも彼女の作品はヴァーチャル・リアリティーが主題です。このインスタレーションはその中でも「自然」をテーマとし、テレビ内の仮想の「自然」との対比と類似で、我々がいかに自然といえども人工の環境に居住しているのかを、風の音を使った仮想自然環境で示しました。風に連動して、トロピカルな葉も6つの違った動きをするようにプログラムで制御されており、まるで自然環境に居るようで、しかし同時になにか違和感を覚える空間でした。

そもそもインスタレーションの起源は、1917年にマルセル・デュシャンが便器を「泉」と名づけてニューヨークのアンデパンダン展で展示したこと、というのが定説です。デュシャンはこの展覧会の審査員でした。といっても審査なしのアンデパンダンという形式で、誰でも応募すれば展示されるという展覧会だったのですが、彼は便器という、まさに美術館の壁にふさわしくないオブジェクトを提出したのです。結果はどうなったかというと、彼の便器は予想通り、審査員たちによって拒絶されました。デュシャンはそれを見越して、前日に友人のスティーグリッツという写真家を連れて便器が美術館の壁にある状況を撮影させました。これが後に有名になるデュシャンの「泉」にまつわるエピソードです。ですから、確信犯的で挑戦的だったこの作品は、実は実物としては一度も大衆の目にさらされることはなかったのです。今ではデュシャンの「泉」というといくつもの複製があり、それにまつわる作品も何十とあります。これはコンセプチュアル・アートの始まりでもありました。

この「泉」という作品は“美術品製造機”という役割も果たしていた美術館の危うさを明らかにしました。我々は無意識に、美術館にふさわしいものとしての伝統を参照することによって、作品を判断してしまいがちです。「泉」はそこの危うさを突いたのです。この作品は伝統を参照する、それまでの美術史の流れを拒否するものとして提出されました。

趣旨は違いますが、室内空間をそのままアートに演出したのは抽象画家のピエト・モンドリアンでした。デュシャンとモンドリアンは実は知り合い。これは、私がエール大学のバイネッケ資料図書館で調査していた時、モンドリアンの遺留品ボックスの中に、“I’ll be back in 5 minutes. Marcel Duchamp”というニューヨークにあるモンドリアンのアトリエのドアの張り紙を見つけたことで分かりました。小さな発見でした。このモンドリアンは自身の延長線上で室内空間をデザインし、絵画作品と同等に扱おうとしました。モンドリアンの手法は、デ・スタイルという17年から始まった、オランダの絵画や建築を統合しようとする運動の一環から生まれてきたものでしたが、室内空間については非常に思い入れがありました。

デュシャンのあとを受けて登場した、戦後現代美術に直接結びつくインスタレーションとしては、四角のタイル状のプレートを等間隔に配置したカール・アンドレの作品などが代表的です。アメリカン・ミニマリズムのインスタレーションの中でも歴史に残りました。

美術批評家のマイケル・フリードは、ミニマル・アートを環境に依存した「演劇的」なもの、として批判しました。つまり、独立した作品そのものの美的判断ではなく、劇場空間のように観客を取り込むパフォーマンス空間を作品とするのはアートに敵対する堕落だというのです。この批評は現在逆手を取られて、観客を巻き込む「劇場的」空間こそが、現代美術のメイン・ストリームになったという感じがあります。

今回紹介したペロルチアーノの作品も、状況を取り入れた演劇空間のようです。野生の自然の風に吹かれた葉が、実は人工のものであり、単なるテレビ上のイメージであるという、幻想的な異空間を観客は経験しました。

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)◎メルボルン大学美術史/哲学学部博士課程修了、モナーシュ大学 アート&デザイン学部博士課程所属。現在は、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたアーティストとして活躍するほか、ディーキン・RMIT大学(藝術の哲学)でも講師を務める。Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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