【現代アート塾】草間彌生って誰ですか?

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第5回

草間彌生って誰ですか?

日本最初の女王として登場したのは、魏志倭人伝などに出てくる卑弥呼でした。その後、天照大御神などが現れ、この国最初の仏教徒となったのも少女でした。こうした流れを見ていくと、日本はどうも女性に重きが置かれる文化のようです。日本の女性は強い——。その流れは現代まで続き、それぞれの分野に草分け的存在の女性がいます。ジャズ界では名ピアニストの秋吉敏子。彼女は単身で1950年代にニューヨークへ飛び、名声を確立しました。彼女は「敏子タバキン」という70〜80年代オーケストラ・ジャズの最高峰のバンド・リーダーでした。後続の日本のジャズマンは秋吉の恩恵を受けています。

草間彌生がニューヨークに単身やって来たのも50年代でした。彼女はオノ・ヨーコよりも早くからニューヨークに落ち着き、ジョセフ・コーネルという、今でいうなら引きこもりの、箱を作ることで知られるアーティストと一緒になりました。日本のコンセプチュアル・アートの草分け的存在、荒川修作が60年代はじめにニューヨークにやってきた時にも、彼の世話をしています。コーネルが死去した70年代には日本へ帰国し、『マンハッタン自殺未遂常習犯』などの小説を書き上げ、賞も取りました。

草間彌生を語るにあたりこのコラムで無視できないのが、私のアーティスト仲間である小山朱鷺子さんという女性です。彼女は草間彌生が若く、まだそれほど有名でなかったころから、良き理解者であり支援者でもありました。小山氏は、103歳で亡くなった小野一夫の舞踏の愛弟子で、シャーマン(巫女)でもあります。現在90歳近くですが精力的に活動を続けられています。彼女は元々仙台の旧家で、病院経営の家に嫁いで自身の美術館も持っていましたが、2011年の東北大震災で自宅・美術館とも大きな被害に遭ってしまいます。その際も、自宅のさらなる被害やリスクも顧みず、交通手段もままならない中東京へやって来て、芸術活動をしていました。被害者への追悼と、世界からの援助に感謝の意味を込め、「天地の詩」という舞踏パフォーマンス・ビデオ制作したのです(不肖ながら私も、テキストとアーティスティック・ディレクターということで参加させてもらっています)。2部作ですが、ともにYouTubeで見ることができます。

さて少し話がそれました。草間彌生の話に戻りましょう。彼女の作品は、幼少のころの両親に対するトラウマや男性恐怖症、自殺未遂、うつ病などといった数々のダークな面が投影されています。ニューヨーク時代にフロイト派の精神分析を受け、効果があったそうですが、反対に絵が描けなくなってしまったともいわれています。そのせいで絵が描けなくなってしまうとは面白い、皮肉なものですね。時に芸術家は、神経症を治療せずうまく付き合うことが求められるのです。彼女は場合はどうしたかというと、東京の病院の精神科に入院し、アトリエと病院との往復を30年間続けているそうです。自殺衝動が強く強迫神経症と診断されていますが、本人曰く、毎日脈拍などの検査を受ける規則正しい生活が、効果的とのこと。

草間彌生といえば水玉模様で有名です。ニューヨークにいたころの初期の作品でよく知られるのは、梅毒。「性病を太陽の下で増殖して、乾いた意識として天下に公表した」のだそうです。またセックス・オブセッションという作品では、男性の性器をかたどった無数の布製の突起物で部屋中を埋めつくすという作品も作っています。恐怖の真ん中に飛び込んでいって、それを克服すべく、自己消滅すること——愛と死、宇宙、永遠、そして平和の願いが込められています。

少し理解しがたい世界のように感じるかもしれませんが、彼女の作品はまさしく一流品。各国の美術館に収蔵され、先日も、世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウスのクリスティーズで、「White No. 28」という作品が7億1千万円の値を付けました。これは、現存の女性アーティストの中では最高額となります。また、3月号でも触れたウォーホルやオルデンバーグといった大御所にアイデアを提供したりもしていることからも、彼女がアート界でどれほどの存在感を放ち、頼りにされているかがうかがい知れます。私の大学時代の朋友で、現在はニューヨーク在住の日本現代美術海外紹介の草分け、富井玲子が言うように「彼女がその国際的な貢献度において、美術史上に大文字で記されるべき日本人アーティストである」ことは疑いがないことのようです。

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)◎メルボルン大学美術史/哲学学部博士課程修了、モナーシュ大学 アート&デザイン学部博士課程所属。現在は、メルボルン大学哲学科名誉フェローまたアーティストとして活躍するほか、ディーキン・RMIT大学(藝術の哲学)でも講師を務める。Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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