第87回 藪入

書家れんのつきいち年中行事
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第87回 藪入

ご機嫌いかがですか、れんです。

皆さんは日ごろ何らかの形でインターネットをご活用のことと思いますが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も利用されているでしょうか。

有名なFacebookやTwitterのほかにもいくつかあるのですが、その内の1つにインターネット電話やテキスト・チャットの機能を提供するLINEがあります。それにはイラストと文字を組み合わせたスタンプと呼ばれる感情表現ツールがあって、それが相互コミュニケーションの大きな役割を果たします。このスタンプ販売は昨年から一般クリエーターへも門戸が開かれ、誰でも申請できるようになりました。かく言う私も「楽」という字をモチーフにした「楽くん」のスタンプを現在発売中です。1回の申請には42種のスタンプを作成して審査を受けなければならないので大変ではありますが、1日3つ作れば2週間でできちゃいますから、冬の夜長にコツコツと挑戦してみるのもいいかもしれません。

さて江戸時代の商家では奉公人が住み込みで働いていました。丁稚(でっち)とか女中とか呼ばれますが、彼らが休みをもらって実家に帰れたのは年に2回、1月16日と7月16日だったそうです。この日のことを「薮入り」と言います(7月は「後の藪入り」とも言う)。

この両日は小正月の1月15日、お盆の7月15日の翌日。奉公先でのこれらの行事を済ませたうえで、実家での行事にも参加できるようにとの配慮だったとのこと。かつてはお嫁さんが実家に帰る日だったそうですが、商家がそれに倣って習慣化したようです。

この日は言わば年に2回の貴重なボーナス日でした。勤め先からは着物や履物が支給され、小遣いが与えられ、実家へのお土産まで持たせてもらったそうです。遠方で実家に帰ることができない者たちは芝居見物や買い物を楽しんだそうですので、町は随分な賑わいだったでしょうね。明治維新後の改暦でも日にちは変わらず新暦に移行。近代化による産業の発展で労働人口が増えたために、薮入りも大イベントになります。明治32年に国産第1号の活動写真が公開され、それが普及するようになると、薮入りの日の映画鑑賞も大変流行したそうです。

大東亜戦争後、労働基準法の改定で日曜日が休日になると薮入りの重要性が薄れ、正月休みやお盆休みに組み込まれていきました。今でも正月とお盆に田舎に帰省するのは薮入りの名残りかもしれませんね。

では作品の説明をします。行書の「薮入」です。「藪」は18画もあるかなり厄介な漢字です。画が密集する部分は往々にしてサイズが大きくなり、全体のバランスが崩れてきます。なぜかと言えば、線と線の間の空間の調整が上手くいかないからです。画数が多い字をほかの字と同じくらいのサイズに収めようとすれば、当然その字内部の線画同士間の距離を狭くしなければなりません。その距離を少画数の字を書くときの感覚で書いてしまうと思いの外サイズが大きくなってしまうのです。ですからその距離を調整するセンスが必要になります。「藪」の場合は草冠下の左の部分が極端に画数が多いのでタイトな線画間隔で攻めます。そして右側ののぶん(攵)をゆったり書いて最終画でバランスを取るといいでしょう。「入」は2画しかない字ですので、第1画を太くとって2字のバランスを調整しました。各々の字の持つ個性を殺さないようにしてあげたいですね。


著者プロフィル
れん(書家/アーティスト)

アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』の製作に書家として参加。書団れん倶楽部主宰。チャツウッドで書道教室運営(月〜土)。写経クラス開設。
Web: nagominoma.com/renclub
Email: renclub@gmail.com
動画: youtube.com/user/renclub

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