第104回 諸手船神事

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第104回 諸手船神事

ご機嫌いかがですか、れんです。

食べる物に好き嫌いがない方というのは、大人であっても子どもであっても、私にとってはそれだけで尊敬の対象です。本人も、そういう風に育てた親も偉いと思います。肉でも魚でも野菜でも「おいしい」と言ってモリモリ食べられるというのは何物にも代えがたい能力です。選り好みなく、何にでも対応しようという心構えが思考の前提として育まれているはずです。私にはそんな能力はありません。好き嫌いは明確です。

甥っ子が肉嫌いの魚好きで魚しか食べないのを苦々しく見つつ、私は目の前のウニやいくらには一切手を付けませんし、貝類は視界に入れません。

「一事が万事」という諺通り、食べ物だけでなく、何事においても嫌いなものには近づかず近づかせず、のスタンス。とはいえ大人ですから嫌いなもとも対峙しなければならない時があります。「よし!」と奮起して挑んではみるものの、ほとんど例外なく「嫌いなものはやっぱり嫌い」であることを再確認してしまうのです。こうなっては、これが個性だと、良い方に考えることにしています。

さて島根県松江市の美保神社では毎年12月3日に「諸手船神事(もろたぶねしんじ)」が行われます。美保崎におられる事代主神(ことしろぬしのかみ)が父神である大国主命(おおくにぬしのみこと)から国譲りの相談を受ける様子を儀礼化したお祭りです。この時、使神の稲背脛命(いなせはぎのみこと)が熊野諸手船(くまののもろたぶね)で美保関に遣わされました。

「国譲り」とは、葦原中国(あしはらのなかつくに)(日本国土)の支配者であった大国主命が、高天原(たかまがはら)の神から国土の支配権委譲を求められ、最終的にそれを承認した話。高天原は天界で、葦原中国は下界の日本神話における名称です。ちなみに死者が行くのは黄泉国(よみのくに)です。

美保神社は8世紀に編纂された『出雲国風土記』の神社台帳に記載のある古社で、この祭は古くは八百穂祭として11月に行われていました。

今でも11月27日の地主社宵祭から始まって12月2日の諸手船宵祭まで、神職らが本殿以下すべての注連縄(しめなわ)を掛け替える「注連縄掛替」や海中で潔斎(海中で身を清める)する「潮掻(しおかき)」など、さまざまな儀式が行われます。

当日は午前中に新嘗祭があり、午後から諸手船神事となります。

まずは12時から大国主命を祀る客人社(まろうどしゃ)で祭典。2時から神楽の上納をし、そのあと宮司神籤(ぐうじみくじ)によって乗船者を決定します。そして宮灘へ下向。18人が2艘の諸手船に分乗します。衣装は他では見ないような古代を感じる烏帽子姿の装束で、太鼓に合わせて「ヤーヤー」と威勢の良い声を上げながら漕ぎだします。そして対岸の社の下を折り返すと岸まで競争。到着後は櫂(かい)で容赦なく水を掛け合うのです。

諸手船は新造の際にも原型を確実に造り伝えていて、昭和30年には「くり抜きおもき造り」として国の重要有形文化財に指定されています。

では作品を。「諸手船神事」の行書です。リズム良く手を動かして書きました。手と船がトントンとつながったのは良かったです。リズムを刻めるのは次にどうなるかを理解しているからで、練習の積み重ねの賜物と言えるでしょう。「事」は、今は6画目の横画を長く書くようですがどうも違和感があります。書聖・王義之(おうぎし)も唐時代の書の三大家・虞世南(ぐせいなん)、欧陽詢(おうようじゅん)も1画目の横画を一番長く書いています。こういうのって一体誰が操作するんでしょうね。どういう理由で王義之を否定したのかじっくり聞いてみたいものです。


著者プロフィル

れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: nagominoma.com/renclub
Email: renclub@gmail.com
動画: youtube.com/user/renclub

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