第107回 おいでまつり

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第107回 おいでまつり

ご機嫌いかがですか、れんです。

子どものころ、「神様は何にでも宿っていてやっていることを全部見ているから、悪いことをしたら必ず罰(ばち)が当たる」と言われて育ちました。いまだにその感覚は私の行動に随分影響していると思います。

八百万(やおよろず)の神の「八百」もたくさん、「万(萬)」もたくさんという意味で、日本には古くから自然のもの全てに神様が宿っているという考え方があります。山の神様や田んぼの神様はもちろん台所やトイレにも。台所の神様は「竈神(かまどがみ)」の「三宝荒神(さんぽうこうじん)」で女神様。「トイレの神様=厠神(かわやがみ)」は「金勝要神(きんかつかねのかみ)」で、何年か前に流行った日本の「トイレの神様」(歌・植村花菜)の歌詞中でも女神とされていましたね。

累計2,500万部発行のコミック『沈黙の艦隊』(作・かわぐちかいじ)では、アメリカ大統領が息子に東洋の説明をします。大昔の東洋では入ってはいけない部屋や倉庫に鍵はなく、戸は紙で封がされていた。その紙が泥棒しようとする人の心に「悪いことをしようとしているがそれで良いのか」と問いかけるのだと。この場面はとても印象的で心に強く残っています。

さて毎年3月18日から23日の6日間、石川県羽咋(はくい)市で「おいで祭り(平国祭)」が開催されます。

ちょっと脱線しますが「咋」の字は初めて見ました。漢和辞典によると音読みで「サク、サ」、人名で「くい」と読み、噛むとか食らうの意味があるようです。職業柄、漢字には結構触れているつもりですが知らない文字はまだたくさんありますね。

話を戻します。この祭りは大国主命(おおくにぬしのみこと)が邪神・兇賊(きょうぞく)を退治して北陸道を平定した伝説を偲び、古式ゆかしく行われます。

大国主命は葦原中国(あしはらなかつくに)(日本の古称)の国造りを完成させた土着の神様です。こういう土着の神様を「国津神(くにつかみ)」と言います。

それに対して、高天原(たかまがはら)の神様は「天津神(あまつかみ)」と言います。高天原には皇室の先祖神・天照大神(あまてらすおおみかみ)などがいます。大国主命の父親である素戔嗚尊(すさのおのみこと)は天照大神の弟で、元々高天原にいましたが追放されて天下ってきたのです。

祭りの開始は18日早朝、神馬を先頭にして神輿を担いだ若衆の列が気多(けた)大社を出発します。それから邑知潟(おうちがた)を1周するように、七尾市の能登生国玉比古(のといくくにたまひこ)神社の間を6日間かけて往復するのです。羽咋市、志賀町、中能登町、七尾市を跨ぐ全300キロの行程中、206カ所で祭典を執り行います。地元では「寒さも気多のおいでまで」と言われ、能登の春の訪れを告げる行事になっています。

では作品を。仮名の「おいでまつり」で、文字間の連綿なく単体にしました。元字で表すと「於以天(゛)末川利」となります。シンプルで曲線的な平仮名は直線の組み合わせの多い漢字や片仮名と比較すると書くのが難しいと思います。ここにある「お」や、例えば「の」「ゆ」などの曲線を張りのある美しいものにするのは簡単ではありません。曲線を使って空間をどう切っていくか、その思いと技術が上手くマッチするには繰り返しの練習が必要ですね。

全体感を出すために、線の雰囲気や右上がりの角度を概ねそろえ、筆の穂先が乱れてもそのまま気にせず書きました。適度な粗さも古代の素朴さを表現する助けになると思います。

さて先ほどの『沈黙の艦隊』の話、大統領は息子に「紙だけで泥棒から守れる世の中になると思うか」と問います。息子は「なるよ!」と答えます。本当にぜひともそうなってほしいものですね。大きな希望です。


著者プロフィル

れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: nagominoma.com/renclub
Email: renclub@gmail.com
動画: youtube.com/user/renclub

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