第114回 笑い祭

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第114回 笑い祭

ご機嫌いかがですか、れんです。

先日、お稽古の時間に「日にちぐすり」という言葉を聞きました。月日の経過が薬代わりとなるという意味の言葉です。私は初めて聞いた名詞でしたが、意味がそのままスッと入ってきて、なんて奇麗な言葉なんだろうと思いました。

すると「ご存じなかったんですか」って聞かれたんです。そんなにポピュラーな言葉なのかと思って尋ねるとその場にいた6人のうち4人が知っていて、知らなかったのは九州出身の私と北海道出身の方。調べてみると関西地方の言葉とありました。

『美人の日本語』(山下景子著・幻冬舎)には365の美しい日本語が挙げられていますが、その中にもこの言葉はありませんでした。こんな美しい日本語なのに知らなかったなんて、と今更ながら思っていますが、こういう言葉はもっともっとたくさんあるのでしょうね。どこかで誰かが次の世代につなげてくれたらと切に願います。

さて、和歌山県の中部に位置する日高郡日高川町で毎年10月(体育の日の前日)に行われるのが『笑い祭(丹生祭)』です。

人口1万人弱の農村ですが、能や歌舞伎の演目でも有名な「安珍・清姫伝説」の紀州道成寺(天台宗)があります。好きだった僧の安珍に裏切られた清姫が激怒で蛇に変化(へんげ)して道成寺で鐘ごと安珍を焼き殺した平安以来の伝説です。8世紀初頭には寺があったそうで平安時代初期から中期はこの辺りは寺勢盛んだったと推測されています。その日高川町の丹生神社の「笑い祭」は江戸時代から続く例祭で、県無形民俗芸能に指定されています。

神代の昔、出雲で開催される八百万(やおよろず)の神の集まりに出席するはずの丹生都比売命(にうつひめのみこと)が寝坊してしまいます。ショックで塞ぎ込む彼女を勇気付けようと、村人たちが「笑え、笑え」と元気付けたことがこの祭りの始まりと伝えられています。

笑い祭では和佐地区で選ばれた男性1人が化粧も衣装もまるでサーカスのピエロのような道化の出で立ちで鈴を振りながら神輿を先達(せんだつ)します。この鈴振りの「笑え笑え」という掛け声で一升枡を持った12人の男たちが大笑いと共に宮へ行列して行くのです。

しかし鈴振りの化粧が度を越え過ぎていて、ピエロが苦手な私としてはちっとも笑う気が起こりませんでした。それでも「笑え」と迫られるので恐怖は募るばかり。しかし観衆はお年寄りも子どもたちも楽しそうで、祭りを楽しみにしていた感じが伝わります。

丹生祭には他にも「奴(やっこ)踊り」「雀踊り」「竹馬駆」「鬼の出迎え」など古式豊かな儀式があって長い間継承されています。

では作品を。行書の「笑い祭」です。この言葉だけでイメージすると明るくて弾んだワイワイした感じなのですが、先述の〝鈴振り″の化粧した顔が怖過ぎた分だけガッチリ硬いところを作りました。作品はあくまで個人の主観に基づくので感じたままで良いと思います。

「笑」の最終画を楷書のように真っすぐ引いて右に払うのか、少し長い点のように本体から距離を取って打つのか、この作品のように山なりの曲線を使うのか。またそれらをどのくらいの長さで、どのくらいの太さにするのか、角度をどうするのかなど、前の画を書き終わってからの一瞬でそれらを決定し視覚化させねばなりません。イメージ通りの線を書くには多くの経験が必要です。自分のポケットにあるたくさんのカードの中から瞬時に出せるようにしておきます。難しい点でもあり、面白い点でもありますね。


著者プロフィル

れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: nagominoma.com/renclub
Email: renclub@gmail.com
動画: youtube.com/user/renclub

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