第120回 松会

©All rights reserved to RENCLUB
©All rights reserved to RENCLUB

第120回 松会

ご機嫌いかがですか、れんです。

毎月ご愛読くださいましてありがとうございます。何と今回でこのコラムは丸10年、120回目を迎えました。これも読者の皆様、日豪プレス様のご支援のお陰と改めて感謝しております。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。

さて皆さんは修験道(しゅげんどう)をご存じでしょうか。悟りを得るために山に籠(こも)って厳しい修行をする日本古来の山岳信仰が神道や仏教(密教)と融合した日本独特の宗教で、修験宗とも呼ばれます。法螺(ほら)貝を吹いている“山伏”がイメージとして浮かびますが彼らは修験者です。

ちょっと話が逸れますが、深編笠(ふかあみがさ)を被って尺八を吹いているのは“虚無僧”です。山伏も虚無僧も時代劇中の変装の定番で、時代劇ファンの方ならおなじみだと思いますが、虚無僧は禅宗の一派である普化宗(ふけしゅう)の僧なので、両者はそもそも宗教が違うのですね。

毎年4月の第3日曜日、福岡県京都郡苅田町(みやこぐんかりたまち)で「等覚寺の松会(まつえ)」(重要無形民族文化財指定)が行われます。

苅田町には明治の廃仏毀釈(きしゃく)までは霊山である普智(ふち)山に等覚寺があり、英彦山を中心とする豊前六峰の修験道の拠点の1つでした。廃仏毀釈とは「仏教を廃して釈迦の教えを毀(こ)わす」こと。祭政一致を目的とする明治政府の神道国教化と神仏分離政策のために各地で仏堂、仏像、経文が破棄されました。

等覚寺の松会は五穀豊穣、疫病退散、国家安泰を祈願する行事として、平安時代の954年に谷之坊覚心によって始められたとされています。修験者たちだけが祭りに関与できるとされ、現在もその末裔で継承しているのだそうです。

その準備は4月1日の坪草刈りと柱起こし(柱を四方から縄で引っ張って立てる)から始まります。第2土曜日には松会の役を決め(役出し座)、白山多賀神社、禊(みそぎ)を行う川、施主の家の門口に注連縄(しめなわ)を張ります(注連下ろし)。そして神様に奉献する御幣(ごへい)を作り(幣はぎ)、翌年の施主を決めます(盛一臈(ろう)御座)。また大網を作って集落内を練り歩き、神社でお祓いを受けた後に柱に掛けます(網打ち・網掛け)。

松会の3日前には施主と次期施主が修験者姿で法螺貝を吹き鳴らしながら箕島海岸まで出向いて海で身を清めた後、海水を白山多賀神社に持ち帰って備えます(塩会)。前日には神輿洗いと笠ぞろえが行われます。当日は早朝の神社への大幣奉納の後、午後から松会本番。神幸行列に続いてさまざまな舞が舞われ、最後に日本で唯一ここだけで継承されている「幣切り神事」が行われます。花笠を被った施主が大幣を背負って柱を登り、頂上で神輿に向かって天下泰平、国土安全、五穀成就の祈願文を読み上げます。そして右手に大幣を持って天地四方を清め、それを左手に持ち替えて右手で刀を抜いて大幣の幣串を一気に切り落とします。こうした諸々の行事がこの山間の小さな集落で千年を越える長い間粛々と続いてきたという事実は、日本史の魅力を底上げしてくれますね。

では作品を。行書の「松会」です。「松」という字は米芾(べいふつ)(北宋時代)の書いた『蜀素帖』にすばらしい手本があります。過去の法帖の臨書で学ぶことはたくさんありますが、お歴々が残した傑作な字形をその筆法も含めて吸収することもその1つです。『蜀素帖』では「松」の木扁の重心を下げてありますが、私はそれを腰高にしました。「会」で下部を重くしたかったからです。そういったアレンジで幅を広げていくことが実践では必要ですね。


れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: renclub.net / Email: renclub@gmail.com / 動画: youtube.com/user/renclub

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る