第123回 遠州山梨祇園祭

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第123回 遠州山梨祇園祭

ご機嫌いかがですか、れんです。

「どんな字が好きですか」と質問される時があります。格好良いと思う字はたくさんあるので1つに絞るのはなかなか難しいのですが、あえて1つを挙げるとすれば、深作欣二監督作品『仁義なき戦い』のクレジットの字です。菅原文太さん主演の有名な仁侠映画ですからご存知の方も多いと思いますが、クレジットの字まではご記憶にあるでしょうか。

文字色は赤。終筆が鋭く尖った線で奔放に書かれたように見える名前の羅列が、しっかりと計算された空間の上に載っています。何というか清濁併せ呑んだ雰囲気がとてもよく出ていて、その映画にふさわしい凄い字だと興奮したことを覚えています。恐らくタイトルを書いた方と同じだとは思いますが、残念ながらどなたが書かれたのかはクレジットでは分かりません。

以前は時代劇ドラマも多く、筆字で書かれたクレジットもよく見掛けました。『水戸黄門』や『大岡越前』のそれも役者の代が変わって今や皆フォントの字になってしまいました。安上りなのは分かりますが、せっかくのすばらしい文化を廃れさせないよう考えて欲しいものです。

さて静岡県袋井市の山梨地区では、7月中旬の週末3日間、山名神社(周智郡森町)祭祀の「遠州山梨祇園祭」が開催されます。遠州と名がついているので静岡だと知れますが、そうでなければ「山梨県(甲州・甲斐国)」の祭りだと勘違いしてしまいますね。

祇園とは祇樹給孤独園(ぎじゅぎっこどくおん)の略称です。古代、インドの舎衛国(しゃえこく)にあった庭園を須達(しゅだつ)長者が購入し、寺院を建ててお釈迦様に寄進。これが仏教の聖地となりました。守護神は祇園神とも呼ばれた牛頭天王(ごずてんのう)。日本では薬師如来の垂迹(すいじゃく)で、須佐之男命(すさのおのみこと)の本地だとされています。山名神社はこれを祭神として706年に創建された歴史の古い神社です。

疫病の流行に対し、この牛頭天王を疫病神として祀り、御霊会(ごりょうえ)を行って無病息災を祈念したのが祇園祭の始まりです。古くは仏式で執り行われていましたが、室町時代の応仁の乱(1467-1477)を境に町衆の祭りへと変化し、曳山(ひきやま)や飾山(かざりやま)の華麗さを競いはやすようになります。

この祭りは、水の霊力によって「穢(けが)れ」を洗い流す「禊(みぞぎ)」と「御霊信仰」とを融合させた形で、農村の虫の害や災いを追い払う祭事として長い間この地に受け継がれてきています。

余談ですが、この地は平安三筆(字の上手なビッグ3)の1人、橘逸勢(たちばなのはやなり)(あとの2人は嵯峨天皇と弘法大師)の終焉の地だそうです(浜松市という説もあり)。私はこの逸勢の書いた『伊都内親王願文』の書が好きで、筆遣いのテクニックでは日本最高峰だと思っています。承和の変(842年)で謀反人とされ、伊豆に流される途中にここで病死してしまいました。

では作品をご覧ください。行書の「遠州山梨祇園祭」です。「山」の1、2画目で尖った山の形を作っています。現在の「山」より1画多いのですが、書では割合よく使われます。また「祇」の示偏(しめすへん)は「ネ」ではなく「示」をそのまま使いました。

全体を右上がりにしようとする時、横画を右上がりにすることは当然必要ですが、文字のボトム・ラインを右に上げた状態にしておくこともまた必要です。「遠」の之繞(しんにょう)の最終画の角度、「州」の2画目と6画目の終筆の位置の差を見て頂くとお分かりになるでしょう。「山」や「梨」にも同様の処置がしてあります。

このように点画の位置を操作することによっても、自分の見せたい形を具現化することができるのです。


れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: renclub.net / Email: renclub@gmail.com / 動画: youtube.com/user/renclub

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