第71回 御水取り

書家れんのつきいち年中行事
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第71回 御水取り

ご機嫌いかがですか、れんです。

皆さんにはあまり馴染みがなく、日ごろ手にすることもないと思いますが、「墨」はなかなか魅力的です。故榊莫山先生の『文房四宝 墨の話』にあるように、「墨のもつ不思議な性は、作られてから十年ぐらいでようやく性能が冴えてくる。そして四十年から六、七十年ぐらいの間が、もっとも墨色のきらめく時期」(原文ママ)なのですが、私の所有墨の中には昭和27(1952)年製のものがあります。高級ワインよりも少し寿命は長いようですが、どちらも永遠にしまっておいても真の役を成しませんから、本当に贅沢な品ですね。数ある墨、死ぬまでに全部使い切れるように頑張らねば。

さて、奈良東大寺と言えば、聖武天皇の発願で造られた奈良の大仏(盧舎那仏)で有名です。この東大寺・二月堂では例年3月1~14日に「修二会(しゅにえ)」の本行(悟りを得るためのもととなる修行)が行われます。これは東大寺を開山した良弁僧正(ろうべんそうじょう)の高弟である実忠和尚(じっちゅうかしょう)が始めたもので、東大寺では「不退の行法」。752年(奈良時代中期)に始まり、大伽藍の2回の火事の時ですら途絶えることなく続けられている伝統行事です。今年でなんと1,263回目にもなるそうです。

正式名称を「十一面悔過(じゅういちめんけか)」と言い、日常犯しているさまざまな過ちを、二月堂のご本尊である十一面観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)の宝前で、世の中の罪を一身に背負った僧侶たちが懺悔します。そして無病息災、鎮護国家、天下泰平、風雨順時、五穀豊穣、万民快楽を願うのです。

もともとは旧暦の2月1日に始められたので、2月に修する法会ということで「修二会」とされました。二月堂という名前もこれに由来しているそうです。

12日深夜(翌午前1時半ごろ)は「お水取り」の儀式が行われます。若狭井という井戸から観音様にお供えする麗水「お香水(こうずい)」を汲み上げるのです。この水は須弥壇(しゅみだん)の下にある香水壺に移されます。ここには千有余年の間、毎回補充される根本香水の壺と、昨年や一昨年の香水を入れてある香水壺があります。根本香水の壺のお香水を少し新しい香水壺に入れることで新しい香水は千年前からの香水の要素を得、また新しい香水も根本香水の壺に注がれて歴史と一体化します。この香水は供えられるだけでなく、信者にも配られ、1年間信仰の水として使われるそうです。

またこの行を務める練行衆の道明かりとして毎晩大きな松明に火が灯されますが、この日に二月堂の欄干に集まった群衆に火の粉を浴びせかける「お松明」は、この行事のシンボル的存在で、2万人以上もの人出となるそうです。「修二会」が「お水取り」「お松明」と呼ばれるのはこのためです。

では作品をご覧ください。少し動きのある楷書の「御水取り」です。縦に4文字の配置なので漢字は横に潰すように書いてあります。習字では正方形の中に文字を入れていくことを学びますが、実社会の文字環境はそればかりで構成されていません。文字の形はいつも同じではなく、その場その時のスペースによって変化させなくてはなりません。それが難しいところでもあり、また面白味でもあります。街に出た時、そんなことを考えながらいろんな看板を眺めながら歩くと、新しい気付きがあるかもしれませんね。


著者プロフィル
れん(書家/アーティスト)

アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』の製作に書家として参加。書団れん倶楽部主宰。チャツウッドで書道教室運営(月〜土)。東日本復興支援「プロジェクト名もない絆」のメンバーとして支援地と被災地をつなぐ活動中。

Web: renclub.net
Email: renclub@gmail.com
動画:youtube.com/user/renclub
UST: ustream.tv/user/obiyoshiyuki

 

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