第81回 鷽替え

書家れんのつきいち年中行事
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第81回 鷽替え

ご機嫌いかがですか、れんです。

新年明けましておめでとうございます。旧年中は何かとご教授賜りまして誠にありがとうございました。本年も変わらずご支援賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

唐突ですが新渡戸稲造氏著の『武士道』をご存じでしょうか。この書は新渡戸氏のアメリカ滞在中に英語で記されました。今、私たちが日本語で読んでいるそれは他者による和訳です。新渡戸氏は江戸末期生まれ。アメリカ人女性と結婚。国際連盟設立の際の事務次長を務めました。聖徳太子の後の5千円札の肖像でも知られています。

私の手元にあるのは大橋小太郎訳の『超訳 武士道』ですが、第10章の「武士の教育」に「武士の教育で第一に重要とされたのが、品格を高め、それを身につけていくこと」とあります。そして「書道について」として「書が優れていることが、大いに尊重されたのは、日本語の文字が絵画的性質を持ち、それ自体が芸術的な価値を持つとされたからである。また筆跡が、その人の性格を表すものと考えられたから」と書かれています。

「武士道」が日本人の道標となるとすれば、たとえ剣はとらずとも品格形成への修練として日頃できることはありそうです。文字を書くことへ臨む姿勢もその1つに挙げられるのでしょう。今年は是非「手書き」にこだわってみてはいかがでしょうか。

さて今月は『鷽替(うそか)え』をご紹介します。「鷽替え」は正月に行われる神事のひとつです。太宰府天満宮(福岡)、亀戸天神社(東京)、大阪天満宮(大阪)、道明寺天満宮(大阪)など主に菅原道真を祭神とする全国の神社(天満宮)で行われます。

鷽は首から頬にかけてが紅、頭と尾が黒、背や腹はグレーの小鳥で、スズメ目アトリ科ウソ属に分類され、全国に広く分布しています。

この鳥と天満宮の関係ですが、「鷽」という字が旧字体の「學(=学)」に似ていることから「天神様(=菅原道真)の使い」と言われてきました。また道真を襲おうとしていた蜂の大群を鷽の群れが食べて救ったとか、天満宮建立のための材木を食い荒らす虫を大挙した鷽が退治したとかいう説があります。

「鷽」が「嘘」に通じることから、去年話した嘘を償うために鷽に託して神前に納めます。その嘘が吉事になることを祈念し、木彫りの鷽である「木鷽」を「替えましょ、替えましょ」と掛け声をかけながら新しいものに取り替えるのです。

道真は時の右大臣・藤原時平の讒言(=嘘)によって大宰府に流されました。そして無実を訴えながら彼の地で亡くなります。無念な彼の胸中が「鷽替え」神事に結びついたのでしょう。

それでは左の作品を。行書の「鷽替」です。画数の多い文字は処理が大変ですが1つ1つの点画をおろそかにしないことが大切です。勝手に省略したり書き順に沿わない続け方をしたりすれば誤字になってしまいます。あせらず、気持にゆとりをもって運筆しましょう。そうすれば次に自分が引くべき線が見えてくるでしょう。どこから始めてどこまで引くのか、太く力を込めるのか柔らかく軽やかに収めるのか。角度は上げるのか下げるのか。はねるのか止めるのか。経験をバックに自由自在の選択を一瞬で行う。それが武道にも通じる書の醍醐味です。今年こそ皆さんに味わっていただきたい。そしてこの日本文化をどんどん紹介していただきたいと思います。


著者プロフィル
れん(書家/アーティスト)

アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』の製作に書家として参加。書団れん倶楽部主宰。チャツウッドで書道教室運営(月〜土)。写経クラス開設。
Web: nagominoma.com/renclub
Email: renclub@gmail.com
動画: youtube.com/user/renclub

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