第11回 その幅14キロ、南北大陸の狭間を抜けて

地球はやっぱり青かった!

絵本作家・森本順子氏がPEACEBOATで巡った世界1周の船旅の記録
文・イラスト・題字=森本順子

第11回 その幅14キロ、南北大陸の狭間を抜けて

左からアフリカ大陸、右からヨーロッパ大陸が地中海の終焉を予告するように水平線を次第にせばめ始める。
 もしも両大陸がつながっていたとしたら地中海は巨大な湖だったかもしれない。とすれば、陸続きがどんな歴史を積み上げてきたものやら。そんな妄想をしているうちに、南北に対峙するモロッコ、スペイン両国の大地が1つの視界に収まり始め、名残尽きない地中海はやがて、文学や映画の舞台などで知られるジブラルタル海峡となって、ついに大西洋に同化し、失せた。
 海の青が重い藍色に変わり、大海のうねりを乗り降りしながら、我らがモナ・リサ号はカナリヤ諸島を目指して、大西洋1,000キロ余を南西に向かって一心に航行している。キャビンの壁に貼った大型の世界地図で、日本でいえば、奄美大島に近い北緯圏に位置すると知った、ラスパルマス(スペイン領)が次の訪問先である。
 
さて、埠頭で「おりづるプロジェクト」のメンバーはラスパルマス市長の歓迎セレモニーやメディアの取材をまず受けた後、バスで移動。ブーゲンビリアのピンクの花々が垣根やバルコニーを飾る、パステル・カラー調の家並みが続く緩い坂道は、大きなラウンドアバウトに吸収されて、我々はようやくテルデ市の「ヒロシマ・ナガサキ広場」に到着した。
 日本からは地球の裏側と言えるほどかけ離れた、南米寄りの大西洋に浮かぶこのカナリヤ諸島に、日本の「憲法9条」の碑が建立されている ! そこはスペイン領の小さな離れ島の一地方都市にすぎないにもかかわらず、なんと「不戦」を誓い、NATOへの加盟を強く反対し続けているという。
 長く続いた悲惨な重い歴史が、市民に平和を希求する強靭な意識を作り上げたのであろうか。平和ボケと言われて久しい故国の現状を重ね、つくづく考えさせられてしまった。
 それにしても、なんとユニークな「碑」であろう。日本のお宮の屋根の鰹木(かつおぎ)をイメージさせるひさしの一角に掲げられた額に、スペイン語でレリーフされた我が「憲法9条」の条文は、あくまで碧く高い空、強い日差しの下で、胸を張って人々に恒久平和を主張しているかに見えた。セレモニーや証言の後、「憲法9条の歌」を被爆者全員が心を込めて合唱した。

地球はやっぱり青かった!

 続いて訪問したインヘニオ市では、証言、交流の後、広場で美しい民族衣装をまとった男女によるフォーク・ダンスが披露された。石段に座り込んだ我々と、集まって来た市民たち皆でリズムに合わせての手拍子、中には誘われてダンスの輪に飛び入りする「おりづる」の人々の笑顔。何という平和な情景であろう。国々の垣根を越えたこの小さな平和を積み重ねることこそが、地球丸ごとの平和につながる道なのかもしれないと、胸を熱くしながら思った。
大西洋を横断する白い孤独なモナ・リサ号を取り巻く視界に、夜中はいざ知らず、ほかの船が現れることはまずない。しかし、船の上では、「洋上大運動会」開催に向けての準備で、人間どもは大忙しだ。
 誕生月で分けた緑、黄、青、黒の4チームはそれぞれ、老若男女こき混ぜての編成。私は緑チームの応援団の1人として、チームのシンボルとした龍の秘密裡の制作に協力した。
 船内での限られた材料集めは容易ではなかった。キャビンの備品である、ダンボールやティッシュの空き箱に山ほどのティッシュ・ペーパー、枕や毛布をかき集め、耳には緑色のサンダル・シューズ、角や髭には針金のハンガー、そして目玉にはミネラル・ウォーターの空瓶を切り取り綿を詰め、青いキャップを瞳孔にした。
 思いつきの試行錯誤の末、3メートルに及ぶ立派な龍が完成。わがチームは応援合戦で優勝の栄冠を得た。それにしても、6・7・8階デッキやプールを使って、数百人がかくもたくさんの競技を楽しんだのは一種の驚きであった。
新大陸発見 ! しかし実は、コロンブスが目指していたらしいアジアではなかった。それはカリブ海に浮かぶサントドミンゴ。先般大地震が発生した国、ハイチとは1つの島を東西に分けた地続きの仲のドミニカ共和国へ向け、1週間の大西洋横断の旅が続く。


PROFILE もりもとじゅんこ◎
1932年3月31日生まれ、広島市出身。シドニー在住。45年8月6日13歳の時、広島市で被爆。82年50歳でオーストラリアへ移住。著者自らの被爆体験を描いた英語版絵本「My Hiroshima」ほか、日本民話の英語版絵本「鶴の恩返し(The White Crane)」「一寸法師(The Inch Boy)」「わらしべ長者(A peace of straw)」「なめとこ山の熊(Kojurou and The Bears)」「仁王とどっこい(The Tow Bullies)」など著書多数。84年から4年連続で豪州児童図書評議会賞を全国3位、2位、2位、1位受賞。97年と98年にNSW州児童文学賞およびオーストラリア児童図書評議会賞1位を受賞。

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