編集部イチ押し! 11月の新作映画をチェック

辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじとともに注目の新作を紹介 ! レイティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。

ヘル・オア・ハイ・ウォーター
Hell or High Water
クライム、ドラマ/CTC 10月27日公開予定 満足度★★★★

隊長が観た!

『ザ・ブリザード/The Finest Hours』『スター・トレック BEYOND』と、今年になり続々と公開されてるクリス・パイン主演映画。そして、今回紹介するのは彼の最新出演作で、『ザ・ブリザード』のベン・フォスターと再共演した『ヘル・オア・ハイ・ウォーター』。

舞台はアメリカ、テキサス州。農場を銀行に差し押さえられたタナーとトビーの兄弟は、銀行強盗で金を手に入れ抵当権を取り戻そうとする。もの静かで真面目なトビーと違って、兄のタナーは前科者、この2人が目標金額まで銀行強盗を繰り返す。その彼らを追うのが、定年退職間近のマーカス保安官と相棒のアルベルト。マーカスは、追跡のためにある推測を立てるが……。

銀行強盗をメインとしたクライム・スリラーだが、追うものと追われるものの息詰まる追走劇とか、バタバタと人が死ぬ派手な銃撃戦とか、ハラハラ・ドキドキの連続というような犯罪映画にありがちなイメージとは、ちょっと違った手触りの作品だ。オープニングの静かなスタートから、前半は「タナーとトビー兄弟」と「保安官のマーカスとアルベルト」の2組をじっくりと描き出す。このどちらかというとスローな展開によって、2組の存在が重なり合う後半の衝撃度が上がり良い効果に。

そして、前半で描かれる2組の対比も素晴らしい。血の気が盛んなタナーと落ち着いたトビー、そのトビーもやはり兄と同じ血を受け継いでいることが分かるガソリン・スタンドのシーン。決して多くを語ることのない2人だが、美しい荒野をバックにじゃれ合う姿は、兄弟のしっかりした絆を見事に表現。また、長年の相棒であるマーカスとアルベルトは軽口を叩きながら、互いへの十分な信頼をうかがわせる。特にモーテルでのシーンは出色だ。ちょっとした笑いも取れるこの2人の会話は、同じくクライム・スリラーを得意とするコーエン兄弟の作品を彷彿とさせる。

4人の俳優のケミストリーもばっちり。特に明るい好青年的な役どころの多かったクリス・パインの抑えた演技には、正直驚かされた。兄を演じるベン・フォスターとも、再共演の強みか息の合ったところを見せてくれた。保安官マーカス役のジェフ・ブリッジスはもうすっかりおじいちゃんになってしまったが、これまた良い味わいを醸し出しており、モーテルでシーツをまとう姿も様になっている。その相棒のアルベルトはアメリカ先住民とメキシコ人のハーフという設定で、この辺りの人種問題とか、サブプライム・ローン問題からの世界金融危機のあおりを受ける兄弟とか、今のアメリカが抱える問題点もさりげなく背景に描かれている。ストーリーだけを聞くと単純な銀行強盗の物語だが、結構奥が深い作品になっているのだ。

ウェスタン系のクライム・ドラマでもあり、バディ映画としても楽しめ、主演4人の演技、美しい景色、気の利いた会話、ロード・ムービー的な展開など、かなり自分のツボを押された映画。男性向けとも言えるが、クリス・パインのファンの人も彼の新たな魅力を確認しに、ぜひ劇場へ。


ネオン・デーモン
The Neon Demon
サスペンス、ホラー/CTC 10月20日公開予定 期待度★★★

エル・ファニング演じるロサンゼルスの新人モデル・ジェスが、華やかなショービズ界の裏に広がる深い闇に飲み込まれていく姿を描く問題作。ジェスを取り巻く、美への執念とも呼べる強い思いを持った女性たちが、彼女の若さや野心を悪魔のごとくむさぼろうとするが……。監督は『ドライヴ』(2011)や『オンリー・ゴッド』(2013)のニコラス・ウィンディング・レフン。スタイリッシュでコントラストの強い独特な色彩感覚の映像美は、ネオンのようにきらめくモデル業界を舞台にしたストーリーの虚実の入り混じった狂気を一層引き立たせる。『マレフィセント』(2014)でオーロラ姫を演じたキュートなエル・ファニングが、血のにおいのするサイコな本作で女優としての新境地を開くのか、要注目。


ウイジャ:オリジン・オブ・イービル
Ouija: Origin of Evil
ホラー、サイコ/TBC 10月20日公開予定 期待度★★★

500万ドルという低予算で制作され1億3,000万ドルもの興行利益を挙げた『呪い襲い殺す(Ouija)』(2014)の続編が、ハロウィーンに合わせて公開。「1人で使ってはいけない」といわれるウイジャ・ボードは、日本の「こっくりさん」のような降霊術や心霊術の道具。舞台は1967年のロサンゼルス、未亡人で降霊術ペテン師のアリス(『トワイライト』シリーズ出演のエリザベス・リーサ-)は、知らず知らずのうちに悪霊を召喚し、幼い娘の魂を乗っ取られてしまう。アリスの家では不気味な出来事が次々と起こり、そして娘は今は亡き父親などの死者としゃべり始める。監督は新鋭マイク・フラナガン。『エクソシスト』や『リング』のようにビジュアルから怖さを誘うクラシックな絶叫系ホラーが好きな人にぜひ。


アイ、ダニエル・ブレイク
I, Daniel Blake
ドラマ/CTC 11月17日公開予定 期待度★★★★★

『麦の穂をゆらす風』(2006)でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞した社会派映画の巨匠ケン・ローチ監督が、2度目となる同賞受賞を果たしたヒューマン・ドラマ。今回は「社会福祉」をユーモアたっぷりに描く。緊縮財政により社会保障費を削減中の現代イギリスで、最愛の妻を亡くし心臓病を抱えた熟年労働者ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は、大工として復帰することが難しい状況だが福祉手当の受給対象から外され求職活動を続けている。そんな中、ひょんなことからダニエルはシングル・マザーのケイティー(ヘイリー・スクワイアーズ)と出会い彼女に手を差し伸べることに。社会問題に切り込みながら、リアルな表現が心を揺さぶるエンターテインメントとしても楽しめるケン・ローチ節に期待。


キーピング・アップ・ウィズ・ジョーンズ
Keeping Up with the Joneses
コメディー/M 10月20日公開予定 期待度★★★★

『ハングオーバー』シリーズでコメディーの才能を見せつけたザック・ガリフィアナキスと『お買いもの中毒な私!』のアイラ・フィッシャーが演じる、典型的な「冴えない平凡な夫婦」。一方、彼らの引っ越し先の郊外の家の隣人は、見目麗しく現実離れした「完璧な夫婦」。そのパーフェクトさを怪しく感じた平凡な2人が隣人を監視し始めると、その真の姿はなんと政府の工作員! 監視が見事にバレたことから平凡な夫婦の生活は一変、突然の銃撃戦にカー・チェイス、スパイ行為にと、華麗なまでにコミカルに巻き込まれていく。冴えない夫が見せつける土壇場でのヘタレぶりは予想の斜め上を行きそう。『宇宙人ポール』や『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のグレッグ・モットーラ監督最新作。


★今月の気になるDVD★

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
Extremely Loud & Incredibly Close
ドラマ、ミステリー 130分(2011年)

最近、『ハドソン川の奇跡(Sully)』や『インフェルノ(Inferno)』など、トム・ハンクス主演作の劇場公開が続いた。少し前なら『ダ・ヴィンチ・コード』や『グリーン・マイル』、『プライベート・ライアン』『ユー・ガット・メール』『フォレスト・ガンプ/一期一会』などいずれも大ヒットした出演作品がずらり。トム・ハンクスといえばもはや「主演」以外の作品を数えるのが容易ではないほどの大物だ。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』はそんなトム・ハンクスが主人公の少年の父親役として主演以外で存在感を見せた貴重な作品かもしれない。登場シーンが少ない上に9.11のビル倒壊に巻き込まれて作中で早々に死んでしまう役どころだが、アスペルガー症候群の主人公オスカー(トーマス・ホーン)の父への思いと喪失感は大人には計り知れないほど大きい。物語の軸は家族を亡くし深い悲しみから抜け出せないオスカーが、父の遺した鍵の謎を追ってニューヨーク中で得るさまざまな出会いと経験。存在感のある父なしではオスカーの物語は薄っぺらいものになりかねなかったわけだが、トム・ハンクスは助演として、息子の良き理解者で愛とユーモアに満ちた父親像を、限られた出演場面だけで完璧なまでに印象付けた。良い仕事とはこういうことか。ちなみに母親役はサンドラ・ブロック、監督は『リトル・ダンサー』のスティーブン・ダルドリー。(編集=MS)

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