【シアター通信】オーストラリアン・バレエ団“シンデレラ”

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリアン・バレエ団『シンデレラ』

取材・文=岸夕夏、写真=Jeff Busby

シンデレラ役のマデリン・イーストー

<あらすじ>

シンデレラは酒飲みの父親と継母、その連れ子と暮らしている。この日、継母と連れ子たちはプリンスが催す舞踏会の準備で忙しくしていたが、シンデレラは1人家で留守番をすることとなる。そんなシンデレラに同情した魔法使いは、魔法でシンデレラを美しく変身させ、12時までには帰って来るという約束の下、舞踏会へと送り込む。12時の鐘の音とともに魔法が解け、片方の靴だけを残してシンデレラは元の生活に戻る――。一方、プリンスは舞踏会で出会ったシンデレラのことが忘れられずに彼女を探して回り、やっと見つけ出すことに成功。その後、2人は幸せに暮らす。

稀代の振付家が描く今作はユーモアに満ちた色彩の玉手箱

オーストラリア・バレエ団の『シンデレラ』を観に初冬のメルボルンに行った。メルボルンは同バレエ団の本拠地でもある。今回のシンデレラは、アレクセイ・ラトマンスキーがオーストラリア・バレエ団のために振り付けしたもの。2013年のメルボルンで世界初演が行われた後、オーストラリア・国内での公演チケットは完売となり、その後も世界中から招聘を受けている。今年の10月には上海でも公演が決定している。

ボリショイ・バレエ団の前芸術監督であるラトマンスキーは、天才的振付家として広く認識されている。彼の振り付けはどのように作り出されるのかというと、「音楽の力は偉大で、そこからステップが見えてくる」のだそうだ。音楽は20世紀ロシアの作曲家プロコフィエフのバレエ組曲。

同作には、いくつかユニークな特徴がある。ほかの振付師による『シンデレラ』とは違って、かぼちゃの馬車が登場しないところ、舞踏会のシーンで女性が皆パンツ・スーツを着ているところなどは、オリジナリティーにあふれた点として挙げられるだろう。ロシア革命後の1940年、ソビエト連邦に替わって戦争を経たころという暗い時代設定にもかかわらず、まるで白いパレットに散りばめられた絵の具のように鮮やかな色使いやシルエットの衣装があまりに美しいので、一種の不思議な雰囲気を醸し出していた。

シンデレラがみすぼらしい服を着て、貧しそうな家の居間を掃除をしているところから幕は開く。筆者が観た日のシンデレラ役は今年7月での引退を発表したプリンシパル・ダンサーのマデリン・イーストー。亡くなった母親を慕う少女っぽさを初々しく演じていた。ラトマンスキー版『シンデレラ』の義姉妹は「いじわる」というよりも、コミカルなマイムや衣装、ヘア・スタイルで「頭の悪そうな」キャラクターに仕立てられている。この舞台を華やかに彩る「名脇役」の演出は十分にその良さを発揮、観客をしばしば笑いの渦に巻き込んだ。舞踏会用の義姉妹の髪型は三角帽型や、巨大な「お団子」。それに合わせる衣装は鮮やかなピンクや、緑、紫などの色合いのちょうちん型スカートとハイ・ソックスというスタイルで、それらと寂れた色彩の居間の空間の対比に、抜群のユーモアが発揮された。

一幕も後半へ近付くと、死んだ母親のポートレートに頬を寄せて慕うシンデレラを見た継母が怒って、そのポートレートをこなごなに壊してしまう場面がある。この衝撃的なシーンからはそのままテンポ良く一幕のクライマックスへと突入。継母と義姉妹たちが舞踏会に出かけた後で、悲しみに暮れるシンデレラの前に魔法使いが現れる。魔法使いのマントが大きく円形に開かれ、その中にシンデレラが吸い込まれていった後で、美しいドレス姿へと変身する様はまるで歌舞伎の早変わりを見ているようだった。シンデレラが家から舞踏会に空間移動するシーンでも、背景幕に映し出されていた星や天の川が巨大な黒い渦巻きに変わっていく様子は圧巻。

第2幕が開けると、そこはきらびやかな宮廷をベースにした現代風の舞踏会。ダンサーの色違いのパンツ・スーツに対し、プリンスは海軍将校を連想させる上下白のシンプルなシャツとパンツをまとっている。この日のプリンス役はダニエル・ガウディエロで、彼が登場すると観客席から大きな拍手が起こった。時間の経過とともに大きな窓が開くと夜空と大きな満月が現われる。同時に12時近くになるとたくさんのメトロノームが動き出し、シンデレラへの門限の警告が鳴り響く。この瞬間から、シンデレラとプリンスのパ・ド・ドゥはどんどんとすれ違い始める。時計がいよいよ12時を回ると、月は時計に変わり、シンデレラも元のみすぼらしい娘に戻ってしまう。プリンスは目の前のシンデレラに気が付くことさえできない。背景に現れた巨大な時間の渦がシンデレラを吸い込むという舞台演出で、場面はあっという間にシンデレラが掃除をするいつもの居間に戻った。3幕のプリンスがシンデレラを探す旅は、大道具を一切使わず、背景幕に写された映像のみでシンデレラと再会するまでの旅物語が進んだ。これには映画と芝居を一体化したような、古典的なバレエの舞台設定とは違う斬新な印象を受けた。

当日は、イーストーの引退前のメルボルン(彼女にとってはホームである)最終公演だった。同夜から1週間後に引退公演を控えた彼女のパフォーマンスは輝いており、全観客の長いスタンディング・オベーションで締め括られた。

本公演は2016年2月19~24日までブリスベンでも上演される。

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