【シアター通信】オーストラリア・バレエ団「白鳥の湖」

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団 「白鳥の湖」

取材・文=岸夕夏

見事なできばえの『白鳥の湖』
見事なできばえの『白鳥の湖』

<あらすじ>

王子ジークフリートは、子どもの頃に見た父王の葬儀を思い出し、迫る戴冠の日の重責を感じている。王子の成人を祝う宴の準備中に母王妃と大法官が姿を見せ、舞踏会に招いた4人の姫を花嫁候補と告げる。夕闇が迫る中、しばし訪れた寂しい湖のほとりで、ひときわ美しい白鳥が若い娘に姿を変えるさまを目の前にしたジークフリートは立ちすくむ。それはロットバルトに魔法をかけられたオデット姫で、夜のみ人間に戻り、魔法を解くには永遠の愛が必要だった。ジークフリートはオデットに愛を誓う。

城の舞踏会に花嫁候補が登場するが、王子のオデットへの想いは募るばかりだ。そこにロットバルトが、オデットとそっくりな娘オディールと共に現れる。オディールに魅了されたジークフリートはオデットへの忠誠を破ったことに絶望し、城を飛び出し湖に向かう。ジークフリートはオデットに許しを請うが、オデットは2人がもはや永遠に一緒になれないことを知っていた。絶望したジークフリートは湖に身を投げる。ジークフリートの遺体を湖から引き揚げたロットバルトはオデットの魂を解放したが、オデットは自由の身になっても白鳥の姿のままでいることを選んだ。


主役2人の渾身の演技が際立った輝きを放った、ベインズ版「白鳥」

オーストラリアバレエ団の2016年シドニー公演のオープニングを飾ったのは「白鳥の湖」だ。本作は同バレエ団が50周年を迎えた4年前、バレエ団の座付き振付家、スティーブン・ベインズに委嘱された作品だ。『白鳥の湖』は『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』と並ぶ三大古典バレエの1つである。音楽はチャイコフスキーのバレエ組曲で、1895年にプティパ・イワノフが振付けて以来今日まで常に人気のあるプログラムだ。オーストラリアバレエ団の『白鳥の湖』には、イギリスの故ダイアナ妃の悲劇を連想させる独創的な演出のグレアム・マーフィー版がある。ベインズ版『白鳥』は本来の古典に近い演出で、登場する人物像を深く描き出している。筆者が観たのはシドニー公演初日で、主役のオデット姫はダンサーの最高位であるプリンシパルのアンバー・スコット。ジークフリート王子はプリンシパルのアダム・ブルだった。

冒頭の印象的なオーボエソロから幕が開き、夜の湖で父王の棺が白鳥の形のボートに乗せられて静かに運ばれていくところから物語は始まる。ジークフリート王子の悲しみが、湖を照らす月の光の中に浮かび上がる。この序幕で暗示されるジークフリートの苦悩がベインズ版『白鳥』の通奏低音として全幕を通して流れている。

ベインズは本作の制作にあたり、アンバー・スコットとアダム・ブルを念頭に置いたと語る。ベインズのスコット評は、強さと脆さの表現力を完璧なバランスで併せ持った抒情的なダンサーで、浮かび上がるようなアラベスクとしなやかな上半身、役柄を深く考える情感のあるアーティストだ。同夜のスコットはまさにベインの評するとおり。ロットバルトに捕らわれたオデットの嘆きが白鳥に化して全身から表現され、指先の使い方、上下に波打つ腕のしなやかさ、首を傾ける角度、1つひとつの所作に深い意味を込めた舞で、息をのむような美しさだ。華やかな場面で憂いのある微笑みを浮かべるブルは王子の気品を漂わせ、彼のソロは哀愁に満ち、ジャンプは高々として軽い。それらは2幕のスコットとブルのパ・ド・ドゥで余すことなく発揮され、バイオリン・ソロが奏でるメランコリックなメロディーにのって、流れるように心のひだを表現した2人のデュエットは熱狂的な拍手に包まれた。

さらに見事だったのは3幕のオディールだ。スコットのオディールは目線ひとつでブルの王子を虜にしてしまい、オデットとは全くの別人と見紛うほどの妖艶さ。そのようなキャラクターを、ダンスの技術と演技両方で観客を圧倒した。『白鳥の湖』の見せ場の1つである3幕の32回転のフェッテは文句のつけようもない出来栄えで、同夜で最も大きな喝さいが劇場を覆った。

本作の衣装と舞台装置を担当したヒュー・コールマンは、華やかな宮廷場面と、舞台全体が青の濃淡で彩られて月の光だけが照らす哀しみに満ちた湖(ベインズは湖を「重要な主役」と呼ぶ)を交互に配し、効果的に対比させた。3幕ではそれまでの抑えた色調から一転して、鮮やかな紫や深いえんじ色の衣装をまとった、スパニッシュ・ダンスやコサック・ダンスが祝宴を彩る。

19世紀を舞台にした古典的な様式の本作では、主役2人の役柄のとらえ方、ダンサーの技量と演技両方の実力が明確に表れる。同夜の『白鳥』はスコットとブルの渾身の演技が際立った輝きを放ち観客を深く魅了した。

通常、オーケストラのコンサート・マスターがカーテン・コールで舞台に上がることは滅多にないが、同夜は素晴らしい音色を響かせたジュン・イ・マが舞台で大きな拍手を受けた。

オーストラリアバレエ団の『白鳥の湖』は5月26日から31日までアデレードで、その後6月7日から18日までメルボルンで上演される。

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