【シアター通信】オーストラリア・バレエ団「コッペリア」

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーマンミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団「コッペリア」

取材・文=岸夕夏、写真=Daniel Boud

第2幕の近藤亜香とアンドリュー・キリアン
第2幕の近藤亜香とアンドリュー・キリアン

<あらすじ>
第1幕

村の名士から鐘が寄贈されることになっている収穫祭の準備で、村人たちは忙しい。スワニルダの家の向かいにはミステリアスなコッペリウス博士の家があり、「少女」が2階のバルコニーで本を読んでいる。スワニルダの婚約者、フランツはその少女に興味を持ち、何とか気を引こうとしてスワニルダと口論になる。コッペリウス博士が外出した時、村の若者たちにからかわれ家の鍵を落としてしまう。スワニルダはその鍵を拾う。

第2幕

スワニルダはバルコニーで読書をしていた謎の少女の正体を突き止めようと、コッペリウス博士の家に忍び込む。コッペリウス博士が戻るとスワニルダは家の中に隠れ、少女が「コッペリア」という名前の機械仕掛けの人形であることを知る。かたや少女への好奇心にかられたフランツは、はしごを使ってコッペリウス博士の家に侵入。フランツの魂をコッペリアの体に入れて、命を与えることを思いついたコッペリウス博士は、フランツに飲み物を与えて意識を失わせ、大きな車輪に手足を縛りつけてしまう。隠れていたスワニルダは、命を与えられたコッペリアのふりをしてフランツを助ける。だが喜びもつかの間、スワニルダのいたずらと分かった博士は人形を抱えて嘆き悲しむ。

第3幕

村人たちに祝福されて、スワニルダとフランツの結婚式が行われる。


華やかさの中に光るコミカルな悲哀

オーストラリア・バレエ団の2016年最後の演目は、陽気で華やかかつコミカルな「コッペリア」だった。舞台前方には古びた趣きの幕が降りていて、そこには「コッペリア̶エナメルの瞳をもつ少女」の文字と奇妙な2つの瞳が描かれている。

「コッペリア」はE.T.A.ホフマンが1817年に発表した、眠らない子どもの目玉を奪っていくという短編小説『砂男』からヒントを得た作品。同小説が人形に恋をした男の狂気性を前面に押し出した物語であるのに対して、バレエ「コッペリア」はその狂気性を抑え明るく楽しい喜劇として構成されている。色彩豊かな音楽は、レオ・ドリーブが「コッペリア」のために作曲した。「コッペリア」は1870年にパリで初演され、150年近くを経た現在でも人気のあるプログラムだ。

2つの瞳が描かれた前幕が照射されて半透明になって上がると、ヨーロッパの山村に佇む2軒の家が目に入ってきた。筆者が観たシドニー初日公演のスワニルダ役はプリンシパルの近藤亜香(あこ)、フランツ役はプリンシパルのチェンウ・グォだった。

近藤は、柿色の膝丈チュチュの衣装で、陽気な村娘を演舞した。フランツがバルコニーに座る美少女に投げキッスをするのを見ると、近藤は怒ってすねてみせる。その顔は現代っ子そのものだ。伸びやかなアラベスク、音楽と完全に溶け合ったステップ、クラシック・バレエのポーズの1つひとつを美しく再現していく近藤の舞と、現代っ子的な表情はアンバランスにも見えるのだが、それが近藤の個性であり魅力なのではないかと思う。

村人たちが軽快に繰り広げるバリエーションの踊りの1幕から一転して、2幕は不気味なコッペリウス博士の作業場だ。薄暗い部屋の天井からは2体の人形が吊り下げられていて、人間と等身大の幾体ものグロテスクな人形が舞台に置かれている。そこに描かれているのは、誰もが子どもの頃に経験したお化け屋敷やテーマ・パークの不気味な仕掛けによって作り出される、ちょっと怖いけれど興味津々といったわくわくするような世界だ。同夜のコッペリウス博士役はプリンシパルのアンドリュー・キリアンで、眼玉がたくさん描かれたマントをまとっている。機械仕掛けの人形、コッペリアの配役はコール・ド・バレエ・ランクの渡邊綾(あや)だった。

人形を装った近藤のカクカクとした動きはユーモラスで、コッペリウス博士がフランツの魂や妙薬を注入する仕草のたびに、スワニルダの舞は躍動感のあるダンサーのものとなっていく。軽やかなステップやジャンプは遊び心に満ちあふれ、観客の目を楽しませた。不気味な人形に扮したダンサーたちの、完全な静と動のマイムは幻想的な中でおかしさを誘い、偏狂的な博士が作り出した黒魔術的な世界をコミカルに描き出す。2幕の最後で、横たわったコッペリアの人形を抱いて悲しむコッペリウス博士には悲哀と滑稽(こっけい)が入り交じり、その姿に同情するスワニルダの表情からは、まもなく結婚式を迎える彼女の心の成長が感じられた。

衣装を制作した今は亡きクリスチャン・フレドリクソンによると、第3幕は「生命への祝祭」を描いたと公演プログラムに記されている。澄んだ夜空を思わせる青色のグラデーションの衣装(前スカートの一部に月と星の装飾が施されている)の群舞が踊った「時のワルツ」に続く「夜明け」の踊り。それに次ぐ詩的な「祈り」の踊りからは静謐(せいひつ)さが漂う。そして、フィナーレのスワニルダとフランツの華やかな結婚式。チェンウの高速の旋回と、近藤の高くきびきびとした跳躍は客席を大いに沸かせながら、多幸感に満ちた終幕を飾った。

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