【シアター通信】オーストラリア・バレエ団『メリー・ウィドウ』

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団 『メリー・ウィドウ』

取材・文=岸夕夏

第3幕より最後のワルツ(TAB “The Merry Widow”, Adam Bull & Amber Scott, Photo: Daniel Boud)
第3幕より最後のワルツ(TAB “The Merry Widow”, Adam Bull & Amber Scott, Photo: Daniel Boud)

あらすじ

第1幕

舞台は1905年のパリ。ポンデヴェドロ国大使館(架空の国)では母国の財政破綻状態に頭を抱えていた。大使のツェータ男爵は、巨額の遺産を相続して未亡人になったハンナ・グラヴァリが大使館主催の舞踏会に出席する知らせを受ける。再婚を望んでいるハンナが他国の男と結婚すれば国が得る恩恵が薄れるため、それを阻止しようと、ツェータ男爵は大使館の一等書記官ダニロ伯爵がハンナの再婚相手候補となるよう計画。ダニロとハンナは昔恋仲だったが、身分の違いから結ばれなかった。一方、大使館職員カミーユは、ツェータ男爵の年若いフランス人の妻、ヴァランシエンヌに夢中。

第1幕の舞踏会シーン(TAB “The Merry Widow”, Amber Scott, Photo: Daniel Boud)
第1幕の舞踏会シーン(TAB “The Merry Widow”, Amber Scott, Photo: Daniel Boud)
第2幕

ハンナ邸で催されたパーティーで、カミーユとヴァランシエンヌが小屋で逢引(あいびき)しているのがツェータ男爵に気付かれそうになる。ハンナは機転を利かせてヴァランシエンヌと入れ替り、カミーユと共に小屋から現れ一堂に婚約を宣言する。ダニロは昔ハンナが贈ったスカーフを投げ捨て屋敷を立ち去る。

第3幕

マキシムに突然現れたハンナにダニロとカミーユは共に腕を差し出し、ハンナはカミーユを選ぶ。決闘を申し込もうとするダニロにヴァランシエンヌとハンナが共に立ちはだかり、互いの気持ちが知られてしまう。2組のカップルはハッピー・エンドとなり、ヴァランシエンヌの気持ちが抑えられないと悟ったツェータ男爵は身を引く。


歓喜と涙のエピソード

オーストラリア・バレエ団の今年2つめの演目『メリー・ウィドウ』は、1905年にウィーンで発表されたオペレッタ『メリー・ウィドウ』をバレエ仕立てにしてもので、オーストラリア・バレエ団が1975年に初めて創作した全3幕の物語バレエだ。公演パンフレットには、世界初演公演と初演ハンナ役のマリリン・ロウにまつわる2つの対照的なエピソードがこう記されている。

「1975年11月メルボルンでの世界初演、第3幕の最後のワルツの場面で、客席からハミングが聞こえてきた。ハミングは幕が下りてライトが付いた後も、真夏の夜の劇場の外へ続いていった」

つまり観客はオペレッタ『メリー・ウィドウ』をよく知っていた。そしてオーストラリア・バレエ団設立から13年間、ファンがどれだけ自前の全幕物語バレエを待ち焦がれ、最後のワルツ・シーンが観客を高揚させたかが目に浮かぶ。

「照明デザイナーであり、舞台ディレクターのマリリン・ロウの夫が飛行機事故で死亡して14カ月後の1981年、ロウはハンナ役で舞台に立った。事故後に男児を出産したニュースは観客皆が知っていて、劇場は涙に包まれていた」

煌(きら)めくベル・エポックの時代

今回のシドニー初日公演は世界初演から数えて404回目となる。世界有数のバレエ団の演目にも加わって、今日でも人気のある作品だ。パリの社交界を彩る着飾った紳士淑女たち、生がほとばしるフレンチカンカンや民族舞踊、パリが華やかに繁栄したベル・エポックと呼ばれる時代が、喜劇のスパイスを利かせて舞台で煌めく。

シドニー初日公演のハンナ役は、プリンシパルのアンバー・スコットだった。頭上には大きなシャンデリアが煌めき、アール・ヌーヴォーの蔦(つた)が装飾された、巨大な円柱が並び立つ広間の螺旋階段から登場したスコットはまばゆいばかりだ。扇をかざして、華やかな黒のドレスをまとった1歩1歩の空間からさえ物語が紡がれる。叙情的なバイオリンの旋律が流れる中で、ロマンスがあったころを振り返った時の切ない表情は印象的だ。回想シーンでは、白の膝丈チュチュに若草色トップの衣装をまとい、髪を下ろすと少女のようにも見え、優美な大人の女のハンナと見事に相反した。かと思えば、第2幕では屋敷の主として家臣を従え、精緻(せいち)な回転で舞台を回り、躍動感溢れるダンスを披露。舞踏会の女性ダンサー3人が踊る場面の中に、ソリスト・ランクに昇格した根本里奈がいた。昨年の『不思議の国のアリス』公演でアリスの大役を務め、大きく成長したのだろう。華が出てきた根本につい目を引き寄せられた。同演目で準主役とも言える、同夜のヴァランシエンヌ役はプリンシパル、リアン・ストジメノフ。茶目っ気のある弾けるようなキュートさで魅力的なヴァランシエンヌを好演し、第2幕のカミーユとヴァランシエンヌの長い密会シーンのパ・ド・ドゥでは、客席から大きな拍手が送られた。

本作の見どころの1つは、デズモンド・ヒーリーがデザインした目を見張る豪華な美術と衣装だ。男性ダンサーが女性ダンサーを頭上高くリフトする幾多のシーンでは、肩を大きく開けたドレスのドレープが波打つように揺れ、美しい造形が現れる。第2幕の東欧的な雰囲気を醸し出す黒のベストに深紅のボトム衣装や、第3幕の赤のグラデーションの舞台美術と、ファッション・ショーとも見紛うコスチュームはまさに色彩の饗宴(きょうえん)。手にグラスを持ち、絡めた腕と腕でくるくると周るハンナとダニロの最後のワルツからは多幸感が解き放たれた。カーテン・コールにはマリリン・ロウも加わり、客席から大きな喝采が寄せられた。『メリー・ウィドウ』は6月7日から16日までメルボルンのステート・シアターでも上演される。(鑑賞:4月28日/シドニー・オペラ・ハウス)

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