No.52 夏の風物詩、ラベンダー・ファーム

タスマニア再発見
美しいラベンダー畑

タスマニア再発見

No.52 夏の風物詩、ラベンダー・ファーム

文=千々岩健一郎

北の町ロンセストンから車で約1時間、ナボーラにあるブライドストー・ラベンダー・ファームは、44ヘクタールもの面積で世界一の規模だと言われている。しかし、このファームの最大の特徴は、その面積の大きさよりも、ラベンダーの花の純粋性にあるようだ。花の純粋性とは、なかんずく、この花から採れる芳香オイルの香りとその効力の優秀性を指している。

このファームの歴史は、栽培技術を持ったロンドンの調香師デニー氏とその一家が1921年、本場フランスの真正ラベンダーの種子とともに入植したことからスタートした。ここで栽培しているラベンダーは、フランス・アルプスに起源を持つ香料としての価値の高い「Lavandula angustifolia」という種類で、デニー氏は現在のナボーラに近い北部リリーデールに最初の農場を作り、このラベンダーの品種改良とともに純粋性の保持に努めた。ラベンダーは、品種間の交配が進みやすく、その純粋性を保つのが難しいため、周囲に影響を及ぼす植物の少ないこの場所を選んだのだ。

その後、1947年により隔離された現在のナボーラに移動して拡張を行い、1970年のリリーデール農場の閉鎖とともに現在に至る。このタスマニア北部でのラベンダー生産を継続して、なんと90年以上の歴史を持っていることになる。

この農場のラベンダーが満開を迎えるのは12月から1月。オイルの抽出に適した熟度になる1月から収穫が始まって、伝統的な手法でオイルの生産が行われる。独自の工夫で作り上げられたハーベスト用のトラクターが穂先の花のみ刈り取り、大きなドラムに入れて蒸し上げ、オイルを取り出す。このシンプルな蒸留行程を経て、純粋なアロマ・オイルに生まれ変わる。1ヘクタールの畑から採れる花の量はわずか5トン。それから採れるオイルはさらにわずか40キロにすぎないのだ。

この稀少な価値の芳香オイルは日本をはじめ世界各国に輸出されているが、もちろん農場内のショップで購入することができる。総生産量の85%は輸出、約15%が国内向けだが、国内向けにはオイルだけではなく、場内で乾燥したドライ・フラワーや、オイルを加工したハンド・クリームなどにも人気がある。ラベンダーの効能はくつろぎの効果。頭痛や心配、不眠など現代人のストレスを抑えるのにまさにピッタリの香料なのだ。

紫色の花畑が見渡す限り一面に広がる風景は、間違いなくタスマニアの夏の風物詩の1つ。この時期、タスマニア北部への旅を予定されている人は、ぜひとも立ち寄ってみていただきたい。


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千々岩 健一郎 プロフィル

タスマニア在住21年。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する同社の運営を行なうとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。特に植物関係の造詣が深く、その専門知識をもとに各種の自然観察ツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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