最初の水力発電所「ワダマーナ」

タスマニア再発見
No.87 最初の水力発電所「ワダマーナ」
文=千々岩健一郎

2014年、タスマニアの水力発電の歴史は100周年を迎えた。この島で使っている電気エネルギーがほとんど水力で作られ、火力にも原子力にも頼っていないという事実は、州のモットーである「クリーン&グリーン」を裏付ける根拠の1つだろう。今回はこの水力発電事業の出発点について取り上げよう。

タスマニアの地図を見ると、そのど真ん中にグレート・レイクという巨大な湖があり、これは標高1,100メートルの山岳台地の上に存在する。

1900年代の初めごろ、タスマニアの自然条件が水力発電に適していることを科学者が発表していたことから、電気精錬の事業を起こそうと考えたある民間の会社がこの湖水の利用を思いついた。そしてグレート・レイクの南から流れ出るシャノン川の下流に最初の発電所を造る計画がスタートしたが、ダムや送水管を含む工事は難航し資金不足に陥ってしまう。何しろ現場は町から遠く離れた山奥で、工事はまず現場に資材を搬入するための延長27キロに及ぶ木製の道を作ることから始まり、また雇用の確保にも困難が伴った。

かくして行き詰まった民間事業に州政府が乗り出し、1914年に水力発電事業省が創設されて公共事業として推進することになった。難工事の末、最初のワダマーナ(Waddamana)発電所が完成しホバートに電気が供給されたのが16年5月。以後、電力時代の到来とともに、この最初の発電所の規模は大きく拡大、同時に州政府はこの事業をタスマニア全域のほかの河川にまで押し広げた。途中、ダム計画などで自然保護運動との対立を招いたこともあるが、再生可能でクリーンな水力発電エネルギーのみでほぼ州全域の電力需要をまかなえることになった現在、この事業を評価してしかるべきだろう。

タスマニア初の「ワダマーナ発電所」の入り口部分
タスマニア初の「ワダマーナ発電所」の入り口部分

このワダマーナ地区の発電所は、現在はすべて閉鎖されている。理由はグレート・レイクの湖水をさらに効率的に利用する新しいポーティナ(Poatina)の発電所を建設したためだ。その結果、グレート・レイクの湖水は、発電に利用された後ロンセストン南部の農業用水としても利用されるようになった。

閉鎖された発電所の建物はそのまま維持保存され、現在はワダマーナ水力発電博物館となっている。館内では、巨大な水力発電タービンの実物が当時のままの姿で見られ、建設当時の苦難に満ちた工事の写真などの展示と併せて間近に見学できる。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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