火色の海岸、ベイ・オブ・ファイヤー/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.95 火色の海岸、ベイ・オブ・ファイヤー
文=千々岩健一郎

1773年のある夕暮れ、島の北東部を航行していた英国の帆船アドベンチャー号が、海岸に沿って連なる赤い火を見た。この船はキャプテン・クックの第2次航海に同行するトバイアス・フルノー船長のもので、彼はこの一帯をベイ・オブ・ファイヤーと名付けた。彼が見たのは海岸線に沿って暮らしていたアボリジニの火で、現在でも貝塚などの生活の跡が多数残っている。

ベイ・オブ・ファイヤーとは、北のエディストン・ポイントと南のビナロング・ベイを結ぶ全長約35キロの海岸線とその海域を指す。どんな所かをひと言で表せば、長くて無垢な白砂と岩塊のビーチが続く場所だが、別の言い回しを取るなら「シンプルな色彩の海岸線」と言っても良いかもしれない。

その特徴は海の青さとビーチの砂の白さだが、更にもう1つ、随所にあるオレンジ色の岩がこの場所を特徴付けている。タスマニア北東部に特有の岩は花崗岩だが、その風化して丸くなった岩塊の表面をオレンジ色の地衣類が覆っているのだ。地衣類とはコケよりも原始的な植物で、この色の鮮やかさはとても生物とは思えない。ベイ・オブ・ファイヤーと名付けられた本当の理由が、この火色をした岩の存在だとする説もあるようだ。朝日が当たった時のオレンジ色の照り返しを想像すると、この説もまんざらうそではないように思われる。

海と砂浜を臨むロッジ ©Bay of Fires Lodge Walk
海と砂浜を臨むロッジ ©Bay of Fires Lodge Walk

さて、このベイ・オブ・ファイヤーを訪問しようとすると、これがなかなか容易ではない。北部はマウント・ウィリアム国立公園、そこから南側は自然保護地域になっていて、この途中の海岸に直接到達できる道路はなく、南北いずれかの地点からビーチに沿って入って行くしかない。車で行くとすれば、南側のビナロング・ベイからガーデンズまで伸びる13キロの道路を使うのがベスト。道路の途中に何カ所かテント・サイトが設けられているので、キャンプを楽しみに行く人も多い。北側からのアプローチは易しくないが、この北部セクションを3泊4日で歩くツアーがあり、人気を呼んでいる。特に、ツアー後半の2泊の宿であるロッジは、海岸線の白砂のビーチと青い海を見下ろす丘に建てられた木造の建物で、そのデザインとロケーションのユニークさから何回も特別な賞を獲得している。価格は安くはないが、特別な機会に、特別な場所での体験を求める人にはお薦めできる場所だ。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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