ワルドハイムとウエインドルファーの森/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.100 ワルドハイムとウエインドルファーの森
文=千々岩健一郎

このコラムも100回目。今回のテーマは私の好きな場所、クレイドル・マウンテン国立公園から取り上げようと思う。国立公園の北側入り口から6キロほど奥に入った所にワルドハイムと呼ばれる場所がある。氷河時代の痕跡が残る原野クレイドル・バレーに面した南向き斜面の一角で、キングビリー・パイン(杉の仲間)を使った木造の小屋が建てられている所だ。この小屋をワルドハイム・シャレー、この斜面に広がる深い降雨林をウエインドルファーの森と呼んでいる。

パンダニに囲まれたワルドハイム・シャレー
パンダニに囲まれたワルドハイム・シャレー

オーストリア人、グスタフ・ウエインドルファーは1900年に西オーストラリアに到着し、その後メルボルンにてタスマニア出身で植物への興味を同じくする女性ケートと出会い、タスマニアにやってくる。1910年、ハネムーンで登ったローランド山から初めてクレイドルの頂を眺め感動し、「ここは人びとのために国立公園としてあるべきだ」という有名な言葉を残した。

その後、森に多数生えているキングビリー・パインでゲスト・ハウスを造り、クレイドルの自然の魅力を人びとに伝えていく役目を担った。いわば、クレイドルの「国立公園の父」と言っても良い存在である。現在ある小屋はキングビリー・パインを荒々しく削る当時の方法で製材し復元したもので、寒々しい小屋の雰囲気がよく分かる。

グスタフは1932年、この小屋から出かけようとしてバイク事故で亡くなり、数日後に発見されてその地に埋葬された。ワルドハイムの小屋の前に墓碑が作られ、現在でも毎年1月1日に追悼会が行われている。

斜面に広がる暗くて深い森の中には15分程度で通り抜けできる散策路が設けられている。苔むしたマートル・ビーチとキングビリー・パインの大木がうっそうと茂り、手付かずの原始の森の雰囲気を容易に味わうことができる。森の入り口には落葉の南極ブナ・ファーガスがあり、小屋の前には独特の風貌を持つパンダニが多数林立していて印象深い。

このワルドハイムは長年、国立公園を5泊6日で縦走するオーバーランド・トラックの出発点であった。現在は、車の出入りのしやすさのために斜面の下のロニー・クリークが正式の出発点となったが、今でもこのワルドハイムの小屋の後ろに寝袋で泊まるキャビンが数棟あり、翌朝出発する人たちの宿舎として公園局を通じて予約利用ができる。


タスマニア再発見

 

千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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