ネルソン滝の自然散策路/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.102 ネルソン滝の自然散策路
文=千々岩健一郎

ホバートを出て西に向かう10号線のハイウェイは長い。中部山岳地域を越えタスマニアを東西に横断していく山道で、地図で見るよりはるかに距離があり、休み無しで走ってもホバートから西の端のストローンの港まで6時間はかかるだろう。今回取り上げるネルソン滝の自然散策路は、この長いドライブの途中で休憩を兼ねた森歩きができるすばらしい場所だ。位置は西部の鉱山の町クイーンズタウンの30分ほど手前で、ここまで来ると険しい曲りくねった道路もほぼおしまい。車を止めて往復30分の森歩きを楽しもう。

このトレイルは「フランクリン・ゴードン野生の川国立公園」の一角にある。短い散策路ながら、ネルソン川に沿った森はしっとりと冷気のこもる冷温帯雨林で、タスマニアで最も雨の多い原始の森にいることを強く感じさせる。

トレイルの途中の案内板に「タイム・スリップして太古の時代に入ってみよう」とあるように、この森には1億数千年前のゴンドワナ時代から生き残る太古の植物群が多数存在する。マンファーンを始めとする数多くのシダの仲間や、常緑の南極ブナのマートル・ビーチ。そして西側の森にのみ生き残るレザーウッドの木には、3月は白い花がまだ多数残っているかもしれない。10~11月の春の季節には、森の中でしっとりと咲くネイティブ・ローレルの花も美しい。

ネルソン滝と木漏れ日の当たる木生のシダ、マンファーン
ネルソン滝と木漏れ日の当たる木生のシダ、マンファーン

こんな湿った薄暗い森の道を15分ほど歩くと、やがて水の落ちる音が聞こえてくる。突き当たりにあるのがネルソン滝だ。高さはおよそ30メートル。大きな滝ではないが水量は豊かで、流れる水が岩肌に当たり白い飛沫(ひまつ)となって末広がりに落ちてくる。滝の上部の開けた青空から降り注ぐ日光が木漏れ日となって、苔(こけ)に覆われた谷川の岩を照らす。訪れる人も少ない滝の前で、流れ落ちる水音に耳を澄ませ目をつぶり静寂の世界に入れば、長距離ドライブの疲れもすっかり癒されるというものだ。

最近、このネルソン滝の散策路の入り口部分にはトイレが設置された。セントクレア湖、フランクリン・ゴードンと国立公園地域を抜けて行く途中には人の住む所も無く、このトイレ・スポットは貴重な存在。また、2~3月のこの時期、ハイウェイ沿いのところどころに蜜蜂の巣箱が多数設置されている。世界で唯一この地で咲く、香り高いレザーウッドの蜂蜜を集める場所だ。トレイル入り口に咲き残るこの花の観察もお忘れなく。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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