世界遺産の農場、ブリケンドン/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.103 世界遺産の農場、ブリケンドン
文=千々岩健一郎

北部の町ロングフォードの郊外にあるこの古い農場(Brickendon Estate)は、2010年にウールマーズ・エステートと共に世界遺産に登録された。ウールマーズは名家アーチャー一家の中心的人物トーマス・アーチャーによって開かれたが、このブリケンドンはその少し後1824年に弟のウィリアム・アーチャーが開いたものだ。

ウールマーズが羊毛生産のための羊の放牧中心の牧場だったのと異なり、およそ465ヘクタールの土地を混合農業を行う農場として入植を進めた。開発には当時、イギリス本国から送られてきた囚人たちの労働力が不可欠で、世界遺産の登録対象になったのも、タスマニアの数多い「囚人が開発に寄与した施設」の1つとして認定されたことによる。有名な監獄史跡ポートアーサーなどと同時に登録されたというのは興味深いところだ。

ウィリアム・アーチャーが開いた農場、ブリケンドン
ウィリアム・アーチャーが開いた農場、ブリケンドン

ウィリアムは、穀物の生産と家畜の放牧をミックスした農業を進めるために土地を小さな面積のパドックに仕切っていった。驚くべきことだが、現在でもこの同じ敷地の農場が6代目のアーチャー・ファミリーによって運営されている。当時、人力や家畜の力で耕した農場は現在は機械化され、近代的な灌漑(かんがい)機が導入されているという違いはあるにしても、スタート時と同じ考え方で農業が行われているのはすばらしい。

ブリケンドンには、北の中心の街、ロンセストンからわずか30分くらいのドライブで訪問することができる。ロングフォードの町を通り抜けた所にある入り口部分は少し分かりにくいが、中に入ると天井の高い木造の納屋を始めとして古い木造やレンガ造りの建物がこぢんまりと集まっている。

当時の鍛冶場の建物が使用を中止したそのままの状態で保存され、小さな教会や毛刈小屋があり、現在はB&Bとして宿泊もできる古いコテージが数軒、これらが1つの小さなビレッジのような趣きで存在している。

建てられて180年近く経つ母屋の周りに造られた庭園などを含めて、このビレッジの中をゆっくりと散策できるコースがある。入り口建物内の展示でアーチャー家の古い歴史を垣間見て、パドックの柵まで餌を求めて近寄ってくるアヒルや鶏、豚などの家畜と遊びながら、現在でも稼動している農場ののどかな雰囲気を感じることができる特別な場所だ。家族連れで場内のコテージに宿泊すれば、子どもたちは身近に家畜と触れ合うことができて楽しいはず。季節の良い週末は地元のカップルの結婚式会場としても人気がある。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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