最古の劇場、シアター・ロイヤル/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.105 最古の劇場、シアター・ロイヤル
文=千々岩健一郎

前回に続きホバートの歴史的な建物の話。シアター・ロイヤル(Theatre Royal)は1837年に造られて、現在まで継続して運営が行われているオーストラリアで最古の劇場だ。囚人が切り出した石材を使った建物は、入植当時の有名な設計家ジョン・リー・アーチャーが設計に関わった。出来てから180年もの間、継続して演劇や舞踊公演などに使われているというのは驚異に値する。

写真を見ても分かるが、小劇場という表現が適切なほど建物自体は決して大きなものではなく、この長い歴史の中で何回も閉鎖や取り壊しの危機に瀕してきた。特に1940年代、メディアの発達によって芸術の世界が生の舞台演劇からラジオや映画の分野に移行し始めたことで、劇場の人気が低迷し、舞台の設備が老朽化して不備が多くなると共に取り壊しの声が高まっていった。

1837年建造のシアター・ロイヤル
1837年建造のシアター・ロイヤル

そんな時にこの劇場の危機を救ったのは、あの世界的に有名な英国の舞台・映画の俳優、ローレンス・オリヴィエ。1948年の世界巡業の途中タスマニアを訪問したオリヴィエは、この劇場の取り壊しの話が有るのを聞いて、広く豪州国内に訴えた。曰く、「この小さく美しい劇場には、111年もの間、舞台に立った俳優たち、あるいは観劇をしてきた人びとの歴史を伝える貴重な雰囲気がある。こんな場所を取り壊すべきではない」。このアピールが届いて、施設をタスマニア州政府が買い上げ、予算を得て大幅な設備の改装を行うことになった。

また最近の事件としては、設立150周年を契機にした大幅な内部の装飾の改装、舞台設備の更新工事が完成したばかりの1984年6月、場内で火災が発生した。煙と消火の水で大きなダメージを受けた舞台は数年間使用出来ない状況に陥ったが何とか復旧にこぎつけた。

こういった危機を逃れてきた劇場だが、現在は新しいプロジェクトで大きく生まれ変わろうとしている。州政府とタスマニア大学、シアター・ロイヤルなどの機関が一緒になって進めているそのプロジェクトの名称は「Hedberg Centre Project」。現在の劇場に隣接して、シアター・ロイヤルの通りと交差するコリンズ通りに面した「Hedberg Brothers’ Garage」(1925年築)の煉瓦の建物を取り込みながら大型の現代的なアート・センターを造るという計画で、既に工事が始まっている。順調に行けば、2018年には大学の音楽学部の各種の設備、モダンなリサイタル・ホールやスタジオなどが一緒になって完成し、シアター・ロイヤルの設備も大きく生まれ変わって活動を続けることになる。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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